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【書評】安心できる場で涙と感情を吐き出してみよう。その先にはきっと新しい自分が待っている 安積遊歩著『自分がきらいなあなたへ』

抱き合う母子

「K市の風景78th」(2019) 画・三井ヤスシ

そもそも自分を愛せない

 「自分を愛するように隣人を愛せよ」

 隣人愛を説いたイエス・キリストの言葉である。

 ただ、この生きづらい現代日本社会においては「自分を愛する」こと自体が、非常に困難であるようにも思う。

 小さな頃から競争を強いられ、弱い立場におかれている人たちへの共感能力が育まれない学校教育。広がる格差のために生活が困窮極まり、荒廃した家庭で虐待を受ければ、自尊感情が著しく低い子どもたちが育つ。企業社会も成果主義ゆえに、他者を押しのけても結果を出し続けなければならない。

 今の日本社会を生きる多くの人たち、とりわけ若者にとっては、「自分を愛する」こと自体が非常に困難なのである。

 『自分がきらいなあなたへ』の著者である安積遊歩さんは、骨形成不全症という2万人に1人という先天的な障害をおもちである。

 本書は、障害をもつ自分を徹底的に嫌っていた遊歩さんが、自分自身を大好きになるまでをあますところなく綴った自伝的エッセイである。

 骨形成不全症とは骨の成長が一般に比べて遅く、また骨が弱くて折れやすい。だから遊歩さんは身長が100cmくらいで、パーソナルアシスタントの力を借りて、車椅子で生活している。

 現在は充分な自己肯定感をもち、車椅子で日本全国はおろか世界中を飛び回る遊歩さんも、障害をもって生まれた自分を愛せない期間が長く続いた。

 親への恨み、医療者への怒り、そして障害をもって生まれた自分自身への徹底的な劣等感に苛まれていた遊歩さん。しかし、幾重にも自分に覆いかぶさるつらい感情に塞ぎこんでいた彼女に、転機が訪れる。

 障害者自立運動との出会いだ。

 自分の人生を変える人たちとの出会いの中、少しずつ自由を得ていく遊歩さん。そしてピアカウンセリングに出合い、自分がおかれたつらい現実と、圧し殺してきた数々の感情と向き合い、乗り越え、障害をもって生まれた自分自身を心の底から受け入れて、愛することができるようになっていく。

 内なる恨み、怒り、劣等感に加えて、障害者というだけで理不尽な差別を受ける日本社会の中で、自分を愛することなど到底できなかった遊歩さんが、なぜ自分を好きになれたのだろうか。

 その答えは、ピアカウンセリングである。

 遊歩さんを大きく変えたピアカウンセリングとは一体どのようなものなのだろうか?

安心できる場所で

 ピアカウンセリングの「ピア」とは「仲間」のこと。同じ障害や病気、また同じ立場や境遇の当事者同士で行う、専門家を必要としないカウンセリングのことである。

 例えば「DV被害者」や「原発事故による避難者」、「男性」「女性」という括りのグループでも、ピアとしてカウンセリングを行うことができる。二人ないし三人が1グループとなり、それぞれ同じ時間を割り当てられ、自分の心の奥底にしまいこんでいた、つらい経験や苦しい過去を感情と共に吐き出していく。

 聞く側は、聞くことに徹し、ただただ耳を傾け寄り添うのである。

 自分の持ち時間を使いきったら、今度は役割を交替する。ピアカウンセリングの約束事として、この場で聞いたことは他言しないこと。守られた場で、安心して自分の奥底にしまいこんでいた感情を話せるためである。

 話す側は、今まで誰にも話せなかったつらい経験を、他者に話すことに最初は戸惑うのだが、回を重ねることで少しずつ話せるようになっていく。そして次第に話せるようになってくると、立ち直れないくらい深く傷ついた経験からくる自分の悲しみの感情が堰を切ったように溢れ、とめどもなく涙がこぼれてしまうのだ。

 わんわん大声で泣いてもよいし、怒りの感情を爆発させ、怒鳴りちらしてもよい。

 人前で泣くことに対する抵抗感や羞恥心、また人前で怒りをあらわにすることに対する社会的な抑圧が、私たちには内面化されているが、ピアカウンセリングではそれらの「常識」を気にする必要がない。

 涙と共に自分の感情を吐き出すことができたなら、お日さまが心を照らすように、ケロッと明るく元気になれるのだ。これがピアカウンセリングの不思議である。

 かくいう私も、遊歩さんのピアカウンセリングに参加している。

 つらかった幼少期、心を病み壊れてしまった10代。人間関係に悩み苦しんだ20代。誰にも話せず、聞いてもらうこともなかった過去を、初めて遊歩さんのピアカウンセリングで話すことができた。深く傷ついた過去を話していく内に、涙が溢れてしまって仕方がなかった。

 男性は「泣くな」という教育を受け、社会的な抑圧も強い。その男性である私が、ピア同士とは言え人前でさめざめと涙を流すのである。

 涙と共にしまいこんでいた苦しい過去を話しきると、本当に心が軽くなる。これを繰り返すことで、過去の自分と決別し、乗り越え、新しい自分になっていく。

 遊歩さんもピアカウンセリングを繰り返し、だんだんと自分を受け入れて、好きになり、十全なる自己肯定感を身につけてきたのだ。

 涙には自浄作用がある。これは、ピアカウンセリングを受けた私の実感である。

 安心できる場で、涙と共に感情を吐き出してみよう。その先にはきっと新しい自分が待っている。

 『自分がきらいなあなたへ』は、徹底的に差別され排除され続けてきた遊歩さんが、それらすべてを乗り越えてきたからこそ語れる、愛情と優しさに満ちた一冊である。

 自身の苦しみだけでなく、ピアカウンセラーとして多くの人たちの悩みや苦しみを聞き続けてきた遊歩さん。「自分を愛する」ことが困難な「自分がきらい」なあなたも、きっと「自分を大好き」になれる。

 今は「自分がきらいなあなた」へ贈る、安積遊歩さんからの愛情溢れる贈り物です。(三井ヤスシ・イラストレーター)

 

自分がきらいなあなたへ

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