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【書評】『多様性のレッスン』 FGM廃絶を支援する女たちの会(WAAF)ニュースレター第82号より

多様性のレッスン 車いすに乗るピアカウンセラー母娘が答える47のQ&A
多様性のレッスン表紙

 著者の安積遊歩さんは、生まれつき骨が弱いという障害をもちながら、アメリカのパークレー自立生活センターで研修を受け日本にピアカウンセリングを紹介するなど、女性障害者の立場から積極的に発信を続けてきた。その範囲はピアカウンセリングをはじめとして、医療、女性差別、幽棲しそうに及び、また長年にわたり私たちの会WAAFの会員でもあり、昨年の会報(80号)には「優生思想とFGM」のタイトルで寄稿してくれている。
 本書は彼女が娘の宇宙(うみ)さんと一緒に、「家族」「コミュニケーション」「仕事・恋愛・健康」「生き方」「差別」の項目ごとに悩める人たちの質問に答える形式をとっている。“車いすに乗る母娘が答える”というと、ピアカウンセリングとは障害をもつ人のカウンセリングだと考える人がいるかもしれないが、ピアカウンセリングとは本来、自分の人生を専門家に委ねるのではなく、同じ境遇や立場にある当事者自身がピア(仲間)となって思いを分かちあい、自分の力や権利を取り戻していく方法だという。

 したがって当然ながら質問は、自分探しの悩み、福祉関係の具体的アドバイスを求めるもの、差別を受けたときの対処法など、さまざまな分野に広がる。
 たとえば、「自分なんていないほうがいい?」「子どもを叩いてしまう…どうしたらやめられますか?」「車いすで入店拒否にあいました。こちらの言い分をどう伝えたらいい?」「おすすめの精神療養施設はありますか?」「なぜ男性は泣いてはいけないのでしょうか?」「いじめられている子どもへのサポート法は?」「人は生産性で測れますか?」など。
 こういった質問に対する答えは、よく新聞などで見かける「悩み相談」の答えとはまったく違う。質問者が自分自身を貶めないこと、自身のいのちを尊び生まれてきたことを喜ぶことが大事だという愛情を基本とし、同時に、他社と同一であるよう強制する抑圧的な日本の常識から解放され自由になるよういざない、共に立ち上がり一歩を踏み出してみようと励ますものとなっている。
 また、過酷な差別と真正面から対峙し闘い続けてきた母と、今現在ニュージーランドで留学生として学ぶ娘の答えが、年齢や体験の差だろうか、微妙に異なるのも興味深いと感じた。

 本の中で特に心に残ったのは、「差別」をテーマとする第5章だ。
 「障害をもつ子を産んだら、と心配です」「親の本音として五体満足をのぞむのは当たり前。優生保護法を一方的に批判する風潮に、居心地の悪さを感じます」といった問いに対して、障害をもつ子が生まれたらという不安はどこから来るのか話してほしいと呼びかけ、五体満足をのぞむのが「当たり前という感覚」こそが優生思想であり、「自分の内にさえあった『当たり前という感覚』を逆転しようとする闘いと活動がなければ、私は娘を迎えられませんでした」と遊歩さんは自分史を語る。

 2016年7月に神奈川県相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で優生思想をもつ元職員によって入所者19人が殺害されるという衝撃的な事件が起こった。その後も公人たる政治家たちの口から、「LGBTは子どもを産まない。生産性がないから税金を投入するのはどうか」「糖尿病は自己責任。医療費を払うのはあほらしい」などといった幽棲しそうに基づく差別発言や自己責任論が発せられる日本社会の中で、「弱者」とされる人だけではなく多くの人がどんどん追い詰められているのではないだろうか。
 本書を読むことをきっかけとして、多様性のレッスンを学び、優生思想や差別と闘う毅然とした態度を身につけたいと思う。(村山千津子)

GM廃絶を支援する女たちの会(WAAF) 
http://www.jca.apc.org/~waaf/

多様性のレッスン 車いすに乗るピアカウンセラー母娘が答える47のQ&A

 

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