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紀伊國屋書店新宿本店 『多様性のレッスン』刊行記念 安積遊歩さん×安積宇宙さんトーク(2019/1/24開催)ほぼ全文書きおこし! その4

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原動力は、聞き合うこと

安積遊歩さん 私は0歳から2歳まで、男性ホルモンを打たれたり、レントゲンを何度も撮られたり、手術を8回も受けました。その手術は、今となってはまったく必要なかったと思っています。そんなふうに、自分のからだをものすごく人から、医療から、無茶苦茶に扱われてきました。
 でも家族は、私と一緒に居続けてくれました。とくに母と妹は、いつも私の味方でした。どういうことかと言うと、赤ちゃんは注射をされても、泣くしかありません。赤ちゃんにとって抵抗の手段は泣くことです。私は、いつも怒って泣いていました。そんな私の涙を、母と妹は黙って聞いてくれました。

 後にピアカウンセリングに出合って、泣くことの重要性に気づきました。泣いたり笑ったり、気持ちをあらわすことは、本当に大切なこと。母と妹が、私のつらい気持ちを聞き続けてくれたことに、とても感謝しています。

 先ほど宇宙ちゃんが、多様性を分かちあうためには、属性ではない小さな多様性を認め合わなければいけない、と言いました。本当にそのとおりです。たとえば私たち二人、車椅子という属性で見ると同じですが、年齢も髪の長さも出てくる話もまったく違います。いろんな違いのある二人ですから、この多様性のおもしろさを確認するためには、対話しなければいけない。そして話すことに加えて、聞くこと、聞き合うことも、すごく大事。聞き合うことを、ピアカウンセリングでずっとやってきました。小さいころからずっと聞いてもらって、30代になってからは人の話を聞くことをやってきた。それが、私の原動力です。

紀伊国屋書店トークショー

つらいことも、何でも話す

遊歩さん 宇宙ちゃんを育てる間も、最高につらい私の気持ちを聞いてくれる、パートナーのタケさんがいてくれました。そして、彼以外にも大勢の仲間が、私の悲しみと、怒りを、とにかく聞き続けてくれました。宇宙ちゃんから、私が60歳を過ぎた今でも、顎がはずれるくらいのつらさを抱えていて驚く、という話がありました。私は正直ですから、彼女に、この世界があまりにつらい、となんでも話します。

 よく感じながら、見てください。この同じ地上に、ものすごく苦しんでいる人たちがいっぱいいるわけです。とくに私は、子どものからだが傷つけられていくことに、耐え難さを感じます。『自分がきらいなあなたへ』のあとがきで書いていますが、今は、FGM(女性性器切除)についても、何かできないかなと思っています。

 文化や伝統、医療や教育もそうですが、子どもはこうあるのがしあわせ、という大人の一方的な思い込みの中で、子どもたちが傷つけられています。これが私には、ときどきとんでもないつらさになるのです。自分の中の、子どもの私が叫ぶのでしょう。だからそのときには、いっぱい泣いて、娘にまで聞いてもらいます。

 ときどき宇宙ちゃんに言われます。「遊歩は、ほかの人の話を聞くのはすごく上手だけど私の話は聞けないよね」って(笑)。最近は言わないよね。聞くのが上手になった?

 

安積宇宙さん 遊歩が電話してくるときは、だいたい自分がつらいときだから、一方的にわーっとしゃべって、「あ、じゃあね」と電話を切る(笑)。「私一言もしゃべっていない?」ということがたまにあります。

 離れて住んでいると、私から電話することがほとんどありません。だから今回のように私が帰ってきて、二人でお話会を開催した時に、遊歩は私の近況を初めて知るんですよね。電話の時は私が「はいはい」と聞くだけですけど、こういう場は対話になるから、ちゃんと聞いてくれる(笑)。

 

怒っても人は離れていかない

宇宙さん 聞き合うことって、本当にすごく大切だと思います。でも聞くときには、方法があるんですね。

 たとえば相手がすごくつらい話をしたときに、どうにかしなきゃいけないと思いながら、なにもできないことって、たくさんある。そんなとき、なにもできない自分を責めてしまって、それで不安になって、結局その人から遠ざかってしまうことがある。でも、なにもできない自分でも、この人のそばにいたい、と思う気持ちは変わらない。だから、まず自分が自分を肯定して、同じように、相手のことも肯定する。相手がその人自身のことをどんなにきらいでも、「私はあなたのことが大好き」という思いを手放さないようにして、話を聞く。そういうことを小さいころから、遊歩をはじめ、いろんな人たちにおしえてもらいました。

 それは本当に、私の力になっていると思っています。だから原動力は、遊歩と同じだね、っていつも話しています。

 こんなにパワフルな母ですから、よく怒るし、みんな離れていってしまうんじゃないかと、子どものころは不安でした。でも、自分の道を貫いても、人は離れていかないんだな、と近年気づいて、ああよかったな、って安堵しているところです。遊歩が、自分を貫く姿を見せてくれてきたから、私も、自分の道を生きていこうと思えてきたかな、と思っています。

 

遊歩さん 繰り返しになりますが、自分の幸せというのは、ほかの人とめっちゃつながっています。彼女が10代のころからシャンプーを使わないとか、酪農王国のニュージーランドにいながらチーズをやめたのは私より彼女が先でした(詳しくは『多様性のレッスン』Q28の回答参照)。

 人や動物や環境が破壊された上にできたもので、自分が一瞬の幸せを感じることが本当にできる? そんなの幸せじゃないよね、というところまで考えて、そういう自分の決断をオープンに語れる人に育ってくれて。今、ものすごく遠く離れて暮らしていても安心なのは、彼女が、自分のからだを自分でみることができる人だから。自分の体を大切にする力を、つけていてくれるから、こんなに安心なのかなと思っています。

 

その5へつづく

 

多様性のレッスン 車いすに乗るピアカウンセラー母娘が答える47のQ&A

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