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紀伊國屋書店新宿本店 『多様性のレッスン』刊行記念 安積遊歩さん×安積宇宙さんトーク(2019/1/24開催)ほぼ全文書きおこし! その5

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頼ることは、つながること

安積宇宙さん これも本に書いたことですが、昨年、私の電動車椅子のタイヤがパンクしてしまいました。授業にも会議にも行けないって一瞬焦ったけれど、よくよく考えれば高校の時は手動の車椅子で移動していたので、友だちに送り迎えをしてもらったり、学校で教室を移動する時も、その時近くにいたクラスメイトに声をかけたりしていたのです。それを思い出して、手動の車椅子を使って移動することにしました。友だちに迎えにきてもらって、大学内では近くにいた人にここまで押して、と言ってヒッチハイクみたいな感じで。

 その時Facebookで、「そんなわけで明日から手動車椅子を使うから、私を見つけたら押してほしい。私は、自分が歩けないこと、車椅子を押してもらわなければ動けないことを使って、もっとみんなと知り合える機会を作ってると思うから。人に頼ることはすなわち人とつながることなんだよ」と投稿したら、すっごい反響がきました。

 みんなそうやって思っているんだ、と改めて知ることができて、すごいよかったにもかかわらず、友だちでパンクのが修理できる人がいて一瞬でパンクが直ってしまい、またすぐ電動車椅子を使う日々に戻ってしまいました(笑)。

 自分のチャレンジとして「週に一回は手動車椅子を使う!」と思いながら、毎朝「ああやっぱり今日も電動車椅子使おう……」と自分との葛藤があるんですけれど。

 いまシェアハウスで暮らしているけれど、結局自分でやってしまうことのほうが多くて、それは、本当は私の体にはよくないことなのです。一人で何でもやってしまうような暮らし方は、私にとっては何年も続かないだろうな、と心のどこかで思っているし、「人を頼っていいんだよ」と思いながら、「自分でやらなきゃ」という思いがどうしても出てきてしまう。それが、私の現状です。もうちょっと人に頼っていいんだよね、ということを思い出そうとしているところです。

 昔はもっと人に頼るのが得意でした。遊歩がだれかに頼むときに「ごめんね」と言うので、「なんでごめんねって謝るの。謝ると私たちの存在が迷惑みたいに聞こえるからやめて」なんて私が言っていたのに……。最近は「ごめんねありがと、ごめんねありがと」って言葉がつい出てしまう。大人になって、社会に適応するとはこういうことなのか、と思うのと同時に、この変化は怖いな、とも思ったりします。

 先ほども言いましたが、人の手を借りることは、人に出会うチャンスを増やすこと。そして人に頼られることで、「だれかに頼っていいんだ」と気づく人が少しでも増えたら、それが本当に私の住みたい世界だと思うので、もっと人を頼っていこうと思っています。

 

紀伊国屋書店トークショー

つらいことだらけの世界に、ちょっとだけの元気を

宇宙さん 『自分がきらいなあなたへ』は、遊歩の30代の時の本を元にしたという話がありましたが、じつは私、遊歩の本で読んだのはその1冊だけでした(笑)。遊歩は本を何冊も出しているから家の本棚にはあったけれど、たまに開いて1ページ読んでまたすぐ閉じる、みたいなつき合い方だったんです。

 でもこれは本当に読みやすい本で、つい読んじゃった。自己否定感いっぱいだった遊歩が、自分のことを好きになろうと決断をして、私のことも、ここまで、いろんな人がかかわるようにして、ある意味遊歩がイメージしたように育ててくれた。その秘訣が込められている本なので、ぜひ読んでほしいなと思っています。

 『多様性のレッスン』は本当に、いろんな人からの、いろんな質問が載っています。どの回答にも、私と遊歩のエッセンスが入っています。さっき遊歩が言ったように、超つらいことが多い世の中で、絶望してしまうような日もある。私も、もしも、何も心配することがない世の中であれば、ビーチでだらだらマンガでも読んで過ごしたいな、と思うときもあります。ただそんなことができるようになる世の中は、私が生きているうちには訪れないだろうな、と思うので。もちろんビーチでだらだらする日もあるし、家でマンガを読んでだらだらする日もあるんですけれど、それでもやっぱりこういう生き方をしていくのかなあ、と。

 中学生くらいまでは、通訳者になりたいなとか、いろんな夢がありました。でも今は、そういう職業の夢ではなくて、この社会にどうなってほしいかというイメージをもって、それを実現するためにはどんなことをすればいいかを考えて、どういうふうに生きていこうかなと思っています。

 今日は若い方もいっぱい来てくださって、それもうれしいし、若い人だけじゃなくて、すべての年代の人と、これからの日々を共に作っていけたらいいなと思います。実際に、そういうふうに生きている人たちがたくさんいるから。

 今回日本に帰ってきて、懐かしい人たちと再会する中で、世界のいろんなひどいことを聞きつつも、自分がやれる最善のことをやっていこう、と思えました。自分の持ち場で踏ん張っている人がたくさんいて、そういう人たちに出会うと、私もやっぱりそうやって生きていきたいと思うし、一人じゃなかったんだなって思い出すことができる。ひとりじゃない、ということを思い出すのは、すごく大切だなって思います。

 私は今、地球の果てみたいなところに住んでいるからみなさんとすごく遠い距離なんですけれど、私はいつも日本の現状のことを考えているし、直接できることがなかったとしても、日本で、それぞれの場所でふんばっている人を知っているから、私もやっぱり、私の持ち場でがんばっていこう、という気持ちになることができます。この本は、つらくなったときや、つらいとまではいかなくても何かを探したいときに開いてもらうとちょっと元気になるような、そんな私たちのエッセンスを込めて書いた本なので、ぜひ読んでいただけたらうれしいです。

 

安積遊歩さん 宇宙ちゃんはなぜビーガンなの? とか、なぜお湯シャンなの? とか、小さな疑問から、考えることを始めてみてください。そして、あなたの幸せを含めて、いろんな人の幸せを作っていくために、お互い搾取したり、ひどい目に遭わせたりするのではない生き方を、いっぱい練習していってほしいと思います。それが『多様性のレッスン』に込めた思いです。

 今日は本当に、ありがとうございました。(了)

 

多様性のレッスン 車いすに乗るピアカウンセラー母娘が答える47のQ&A

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