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スウェーデンの学校に重要な6つのこと〜ソフィア・ヤンベリさんのお話から〜

ソフィア・ヤンベリさんによる講演風景

 北海道は当別町のスウェーデン交流センターで毎月行われるスウェーデンセミナー。
 センターのスウェーデン人スタッフが担当するこのセミナー。
 現在のスタッフはソフィア・ヤンベリさん。
 先々月は「スウェーデンのLGBT」がテーマで、これがとっても興味深い内容だったので(スウェーデンは世界一LGBTにやさしい国と言ってよい、と思う)、書籍化の予定です。おたのしみにください。

 さて7月27日(土)のテーマは、「スウェーデンの教育」。
 『みんなの教育 スウェーデンの「人を育てる」国家戦略』を刊行する小社としては行くしかない!
 ということで、参加してきました。

1500人中1人のニーズも尊重する

 福祉立国のイメージが強いスウェーデンは、教育立国でもある。教育費の対GDP比は7.5%で世界6位(日本は3.5%で世界115位・注)。
 もっとも特徴的なのは、少人数制(高校でも1クラス平均25名)で徹底的に一人一人を尊重すること。
 たとえば小学校に入るのを1年遅らせることもできるし、高校3年間を2年で終えることもできる。スウェーデンの進級はその子その子に合わせたものだから、学年を聞いても年齢がわからない。
 また学校給食(もちろん無料)はハラル、ビーガン、アレルギー対応で、1500人中、たった1人だけのニーズだったとしても、「私」だけの料理を用意してくれるという。
 各論については『みんなの教育』に詳しいので、ここでは、スウェーデンの教育を終えたばかりの(正確には今月のご帰国後、大学院へ戻られるそう)ヤンベリさんならではの視点で、インパクトのあった内容をお伝えしたい。

学びつづける人間を育てる

 この日紹介された「スウェーデンの学校に重要な6つのこと」。

  1. 修辞学(レトリック)
  2. 批判的思考
  3. 自由・責任
  4. コミュニケーション能力
  5. 創造性
  6. 自分の意見をもつ

 1つ目がレトリックですよ!
 2に批判的思考(critical thinking)、4にコミュニケーション力があることから、世界をとらえる力(リテラシー)と、他者と関わる力を育てることに重点がおかれていることがわかる。
 「これらがあると卒業後もずっと学びつづけられる」とヤンベリさん。
 ここで「学びつづける」という言葉がさらっと出てくるのも、生涯学習(Lifelong learning)社会だから。ちなみに最近薄まりましたけど、一時期日本で叫ばれていた「リカレント教育」はスウェーデンが発祥(詳しくは『みんなの教育』「第5章スウェーデン発の「リカレント教育」と「生涯学習」)。
 5つめの創造性も、北欧的。
 世界でもいちはやく知業時代のための教育にシフトした北欧では、「情報を覚えるよりも探す」能力を伸ばすことに力を入れている。かつそこでは「答えが一つ以上ある」「はっきりした答えがない」ことを認めることが必要。そこで「どうすべきか?」を思いつき、実行に移せることが北欧の創造性で、スウェーデンには起業家が多いことも、うなづける。

中学生で批判的思考に飽き飽き

 6つめ、「自分の意見をもつ」については、「自分の意見がないとメディアから流れることを信じてしまうので」とヤンベリさん。
 しかし、ある程度の年齢になっていきなり「自分の意見をもて」と言われても困る。
 以下は私見だけれどスウェーデンの場合は強要されるという感じはなくて、小さいころから個が尊重されるから、自然と自分の感じたことや思い、アイディアをみんなの前で述べることができるようになる。教室でも「他者を尊重する」空気が作られているからそれを受け入れ、やがて「自分の意見とアイディアのある大人」「自信のある大人」が育つのではないか。
 ただヤンベリさんは「中学生ごろは批判的思考に飽きていました。めんどくさい、ネガティブな感じ。でもいま役に立っていると思うので、学んでいてよかった」とも。
 中学生でクリティカル・シンキングに飽き飽きってすごすぎると思った一方、子ども時代に批判的思考はやや負荷な作業なのかもしれない。でもそれなりの年齢からトレーニングしないと、という気もする。

学力か、他の能力か

 質疑応答で、学力の高いフィンランドを意識するのか? という話題が出た。
 「そういうディスカッションはよくあります」とヤンベリさん。
 「国際的によく見える教育か、子どもの人生に本当に必要なスキルを与える教育か。どちらの意見もあります。批判的思考は、テストではなかなか可視化できませんから。フィンランドを真似するべきかはよくディベートになります。事実は、その間なのではないでしょうか」
 今回改めて驚いたのは、
 「個人は社会を変えられる」と学校でおしえてもらう
 というフレーズ。
 スウェーデンの若者の自己効力感の高さは『みんなの教育』でも言及されているけれど、そんなふうに、学校でおしえてくれたら、それはいいよね。
 学校ストで欧州の同世代から圧倒的な共感を得たグレタ・トゥンベリさんもスウェーデンの子ども。グレタさんは成績優秀で、校長に許可をとって、学校ストを始めたそう。許可を取ってなかったらさすがに進級できないかも、とヤンベリさんのお話でした。
 改革好きなスウェーデンでは制度が変わるたびに、現場の教師はたいへんという話もあったけれど、これからの子どもに最善の教育は何かを真剣に考えた上での改革のように見える。
 日本という足もとでは、大学入試改革が迷走していたり。
 子どもにとって最善の教育とは何でしょうか。
 そう考えるとき、スウェーデンの教育は最適な教材の一つであることは確かです。

注 https://www.globalnote.jp/post-1479.html

 

みんなの教育 スウェーデンの「人を育てる」国家戦略

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