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4.162018
『みんなの教育』発売記念! 第12回創造性教育ワークショップ体験リポート<前編>
学習指導要領にも「起業家精神」が出てくるスウェーデン。それってどんな教育なの?
イケア、スカイプ、マインクラフト、スポティファイ……どれか一つでも聞いたことがありますか? これらはすべて、スウェーデン発。
スウェーデンは90年代の不況を高いイノベーション力などでのりこえ、強い経済と高福祉、多様性と持続可能性を並立させています。北欧諸国は「次のスーパーモデル」(『Economist』誌)として世界から注目されているのです。
どんな意見も聞いてもらえる
北海道で25年間教鞭をとり、現在はスウェーデンで暮らす川崎一彦東海大学名誉教授による「北欧に学ぶ創造性ワークショップ」の第12回目が3月25日、札幌にて行われました。のべ300名以上が参加してきた人気ワークショップです。
今回のテーマは「起業家精神教育」。
スウェーデンの学習指導要領には、「起業家精神を育てる」と書かれているのです!
ゲストとしてRealtime Boardで参加したスウェーデン・トゥンバ高校教諭のアールベリエル松井久子さんは、次のように言います。
「保育園、小学校低学年から、ひとりひとり違うということを学びます。協調性ももちろん大切ですが、前提としてひとりひとりがお互い違うことを尊重することをおそわります。
子どもたちは低学年のころから、間違いを指摘されたり、発言を拒絶されることがあまりありません。どんな意見でもすくいあげてもらえます。ですから子どもたちも自由に自分のアイディアを出し合うことができます。では、実際にやってみよう! という学校からの支援もあります」
知識だけでは足りない
「日本とスウェーデンの高校のいちばんの違いは?」という質問が会場から出ました。
「日本は受験対策が第一で、とにかく知識をつめこむというか学ぶことが中心ですね(編集部注・アールベリエル松井さんは日本の高校教諭という経歴も)。
スウェーデンの高校、小中学校では、知識だけでは足りません。知識を学んだうえで、それを分析したり自分の意見を述べる、根拠を示して他者を説得できる表現力をつける、といったむずかしい要求があります。それが完璧にできているかは別の問題ですが」(アールベリエル松井さん)
オープンな学校
参加された現役中学校教諭より、次のような感想も出ました。「日本の学校は社会とのつながりが希薄で、学ぶことの目的も共有されていないことを痛感します」。
アールベリエル松井さんによれば「社会問題についても学校で話し合います。学校は社会から隔離された空間ではなく、学校自体がオープンな存在です。外からもいろんな方がレクチャーに来たり、インフォメーションに接する機会があります。学校のディスカッションで取り上げる問題も、教科書に載っているテーマではなく、実際の社会で問題になっていること、新聞で話題になっていることが多いですね」。
卒業研究で会社を作るケースも
ファシリテーターの川崎さんからは「松井先生がスウェーデンで教鞭をとってこられたこの20年で起業家精神について何か変化を感じられますか?」という質問。
「90年代半ばには若年層の失業者問題がまずあって、それを減らすために起業を進めるという流れもありました。起業はむずかしいことではない。思っていることをちょっとやってみたら、という感覚です。20年前に比べて、身近に起業している人が増えてきた、という感じはあります。
高校の場合、市が中心となって、若手起業家を支援するプロジェクトがあります。地域が奨励してやっています。何を専攻していても、個人でもグループでも、会社を実際につくってみたというケースは多いです。授業や卒業研究、プロジェクト学習の一環で会社を作る生徒もいます。最近では移民の就労政策も含め、ますますさかんになってきたなと思います」(アールベリエル松井さん)
(文・ミツイパブリッシング編集部)