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スウェーデン社会研究所のオンライン研究講座にソフィア・ヤンベリさんが出演しました

スウェーデン社会研究所のオンライン研究講座に、『ぼくが小さなプライド・パレード』のソフィア・ヤンベリさんが登場しました。2022年2月に発行された同研究所の所報第383号より、講座の様子を転載させていただきます。

【2021年5月29日 オンライン研究講座】
『ぼくが小さなプライド・パレード 北欧スウェーデンのLGBT+』著者と語る
ソフィア・ヤンベリ氏

 ソフィアさんは、ストックホルム大学日本研究学科在学中の2013年に初来日されました。南山大学に留学後、帰国してストックホルム大学を卒業後、再び来日して2016~17年に上智大学に留学、2018 年~19 年に北海道当別町のスウェーデン交流センターに勤務され、現在はスウェーデンに戻られています。
 日本とスウェーデン双方の社会事情に詳しく、日本語も堪能な彼女が、セクシャル・マイノ リティに関わる問題をどのようにとらえているのかについて、様々なお話をうかがいました。なお、明治大学国際日本学部鈴木ゼミ4年生の須賀萌花さんと村田麻理亜さんに、聞き手として参加していただきました。

テレビ会議で話すソフィアさん

 ソフィアさんは、日本に来た当初は、ご自身がバイセクシュアルであることを周囲の人に話していませんでした。それはバイセクシュアルであることを恥じていたからではなく、単に恋愛について話す機会がなかっただけでしたが、自分がバイセクシュアルであることを、周囲の日本人がどのように受け止めるのかがわからなかったということがありました。
 けれどもLGBT+について誰も何も話さなければ、そのような人々が自分の周囲にいるとは思わず、いつまでたっても他人事として理解が進まないということに気づき、積極的に話すようになったそうです。そして話してみると、意外に日本でも理解を示してくれる人が多いことに気づきました。
 そうしてスウェーデン交流センターのセミナーにおいて、LGBT+について話したことがきっかけとなって、『ぼくが小さなプライド・パレード北欧スウェーデンのLGBT+』の執筆に至ったというわけです。
 ソフィアさんは、日本人は個人としては優しく、LGBT+に対しても理解を示してくれるけれども、日本の法律としてはまだまだ改善の余地があると言います。同性婚が認められていないのみならず、LGBT+の人々に対する差別を禁止する法律がいまだ成立をみていないことを、とても残念に思っています。
 世界150カ国を対象としたランキングでも、スウェーデンが第3位であるのに対して、日本は第72位と、大きく立ち遅れています。
 ただしスウェーデンも、現在の高齢者の世代においては、LGBT+に対して非常に強い差別があったそうです。また現在でも、①インターセックスとして生まれてきた赤ちゃんに対する手術を、親の同意のみで行っている、②LGBT+の亡命を十分受け入れていない、③トランスジェンダーの人が手術によってジェンダーを変更するトランジションの手続きが煩雑で時間がかかる、といった課題があることを教えていただきました。
 しかしスウェーデンは、自己の表現や個人の権利を重視する価値観と、草の根の運動からのボトムアップで社会を変えていく伝統に基づいて、様々な取り組みを行っています。
 たとえば現在の高齢者世代のLGBT+の人々が安心して暮らせるように、世界初のLGBT+の人々向けの高齢者住居Regnbagen(Rainbow=虹)が開設されています。

高齢者住宅のマンションの様子

 またソフィアさんからは、今のスウェーデンの若者たちの間では、セクシャル・アイデンティティーはアイデンティティーの1つではあるけれども、それだけを殊更に取り上げるということをしなくなっているというお話がありました。
 教育の役割も重要です。特に新聞などのメディアの記事の内容をそのまま鵜呑みにするのではなく、その記事はどのような価値観のもとで書かれているのか、その記事の筆者はどのような立場に立っているのかといったことを考察し、さらにそれに対する自分の意見を組み立てることが大切であるというお話もありました。
 今後の日本において、セクシャル・マイノリティーの人々に対する理解を深めていくにはどうしたら良いかという質問に対しては、当事者の思いやお話をよく聞き、その人たちを理解するように努めること、そしてそういう機会を増やして、もっとオープンに話し合う場を作ることが大切であると答えていらっしゃいました。
 スウェーデンでは、職場などで何か特別な取り組みがなされているのですか、という質問に対しては、むしろ特別視しないということが大切だし、今のスウェーデンの職場では何もしないことがむしろ普通であるということでした。

 最後に、ソフィアさんが日本で過ごす中で何かご苦労されたことがあったかという質問に対して、日本には教えてもらわないとわからない決まり事がたくさんあって大変だったと話されていたのが印象的でした。
 とかく日本では、いろいろなことを話さなくてもわかる、察することができることが美徳とされる傾向がありますが、あまりその価値観にとらわれ過ぎると、ソフィアさんが強調されていた、オープンに議論するということがなかなか進みません。これはセクシャル・マイノリティの問題に限ったことではありませんが、この姿勢を顧みることが今の日本人には求められているのではないかという思いを、あらためて強く持ちました。

JISS Bulletin 一般社団法人スウェーデン社会研究所 所報 第383号

『ぼくが小さなプライド・パレード 北欧スウェーデンのLGBT+』ソフィア・ヤンベリ(著)轡田 いずみ (訳)【特設ページ】

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