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「おかあさんじゃない人」少女のための性の話

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おかあさんのこと好き?

あなたはきっとおかあさんのことが大好きですね。おかあさんと仲がいいと思う。

なんでもおかあさんに言えて、なんでもおかあさんに相談できて、困ったことはおかあさんに言う。やさしくて、頼りになって、あなたをおだやかに見つめてくれるおかあさん。あなたもそれを心地よく思う。それはとってもいいことです。

これからももっともっとおかあさんと仲良くしてください。あなたの人生のいちばん身近な女性として、おかあさんはずっとずっとあなたの人生の伴走者でありえます。

え? おかあさんのことそんなに好きじゃないですか? なんだかうるさくてきらい。なんとなく気があわない。いちいち干渉されていやだ。あるいは、なにをやっても、あんまり関心をもってくれなくてつまんない。おねえちゃんのことばかりひいきする。おかあさんの顔を見ると、なんだかうんざりしてしまう。

そんな人もいますよね、もちろん。

おかあさんと言っても一人の女。あなたと気があうこともあれば、あわないこともある。ちょっと、これって、どうなのかしら、と思う、性格上の欠点もあったりする。それでもおかあさんはずっとあなたの人生のそばにいる。あなたはおかあさんから、きっぱり離れることはとてもむずかしい。たとえあんまり好きでなくても。

彼女も一人の女性

でもあなたが年齢を重ねていくにしたがって、さっきも書いたけど、「おかあさんも、一人の女の人にすぎない」ことがわかってきたりします。自分と同じように長所も欠点もある、ただ、一人の女性であることが理解できてくるのです。

そのころになると、あなたがあんまり好きじゃないな、と思っていたおかあさんのことも許せるようになってくるかもしれない。

だいたい、この文章を読んでくれている若いあなた、あなたくらいの世代で、自分のおかあさんのこと、あんまり好きじゃない、なんて、醒めた目を持つことができる、ということ、それはそれで、あなたの成熟と才能を示すもの。あなたがおとなになりつつあることを示しています。

おかあさんが好き、きらい、どころか、おかあさんがいない人もいます。生まれたときにすでにおかあさんがいなかった人もいるし、人生のどこかでおかあさんを亡くした人もいます。悲しかったね。おかあさんがいない、おかあさんがいなくなる、というのは、生きていく上でいちばん悲しいこと。あなたがもしそういう境遇なら、よりいっそう、あなたには心を寄せていたいと思います。

近すぎる関係

おかあさんと仲のいい人、おかあさんがあんまり好きじゃない人、おかあさんがいない人。いろんな人がいると思います。いろんな人がいることを前提に、あなたに、あえて言いましょう。あなたの人生にいちばん大きな影響を与える女性は、おかあさんではない。

あなたがこれから生きていく上で、もっとも偉大な知恵を授けてくれる人は、おかあさんではない。生活の上で最も大切なことをいろいろおしえてくれるのも、おそらくおかあさんではない。ましてや、人生の師、となる人は、さらにおかあさんではない。

あなたはこれから、さまざまな年上の女の人たちと出会うでしょう。そのうちのだれかが、あなたにとても大きな影響を与える女性となるのです。それは、おかあさんじゃない人。

わたしたちはなぜか、直系の母親からは多くを学ぶことはできません。あまりに身近すぎて、あまりにあなたが彼女の一部でありすぎて、大好き、とか、大嫌い、とか原始的とも言えるような感情におそわれやすいために、彼女からは学べないのです。

もちろん幼い頃からおしえられた生活様式、つまりは朝起きたらまず顔を洗う、とか、夜寝る前にはパジャマに着替えてあしたの着替えを枕元に置く、とか、朝ご飯はかならず家族で食べる、とか、そういうことに関しては、おかあさんはあなたの生活の根幹をつくる人でもありうるでしょう。

でも、あなたの人生を通じて、あなたに大切なことを教えてくれる重要な女性たちは、おそらくは、母ではないのです。

もうひとりのおかあさん

お姑(しゅうとめ)さん、という言葉を聞いたことがありますか。あなたが将来、愛して、ともにくらすようになる男性のおかあさんのことです。きっとあなたは「お姑さん」という言葉にいいイメージはないかもしれません。

この国ではずっと「嫁と姑は仲が悪い」とか、「姑が嫁をいじめる」とか言われてきたし、実際のあなたのおかあさんも自分のお姑さん(あなたにとってはお父さん側のおばあちゃん。結構、あなた自身は、おばあちゃんのこと好きなのではないかしら)が好きじゃないことがよくあるから、あなたも「嫁と姑はうまくいかない」と思っているかもしれません。

それはある意味、しかたがないのです。嫁にとっての夫、姑にとっての息子、という、おなじ男をめぐってのとりあいにもなることだから。若いあなたには、話がこみいっているかな。難しいんですよ、一人の男をめぐる女同士の関係って。

ことほどさように嫁と姑はうまくいかない、とよく言われているし実際にもむずかしいところがあるのだけれど、ここには人類の大きな知恵が隠れているとも、思うのです。

娘は、母親から学べなかったことの多くを姑から学べる。濃い感情うずまく母親のことは客観視できなくても、一歩はなれた関係である姑のことは「一人の女性」として見ることができる。よきことも、あまり気に入らないことも、さまざまな家事、育児に関することも、姑からは冷静に学べたりするし、また冷静にこれはちがう、と思えたりするのです。

あなたを助ける女性

ちょっと前までの日本は「お嫁にいく」という形態の結婚が多くて、多くの若い女性は、夫の家族のなかで暮らし、姑から生活上のこと、家をきりもりすること、子どもを育てること、などについて多くを学んでいました。

そういう「お嫁にいく」という結婚の仕方は、前近代的で家父長制の名残り(「家父長制」の意味がわからない人は、調べてくださいね)である、ということで、あなたのおばあちゃんくらいの世代から、あまり好まれなくなりました。それでも、直系ではない女性からこそ若い女性は多くを学べる、というこのあり方には、多くの知恵がつまっていた、と感じることも多いのです。

まあ、難しい話はさておいて。将来、あなたが共に暮らす男性の母である人、あなたが「おかあさん」と呼ぶようになる、もうひとりの女性がどんな人か、楽しみにしていてください。その女性とのおつきあいは、あなたの人生でとても楽しみなものになることでしょう。

あなたの体に関すること、もちろん、生理のこととか、いま、あなたが困っているいろいろなことの相談相手は、あなたのおかあさんだと思います。

けれど、これからあなたが大人になっていく過程で、男の人との関係、もっとはっきりいうと、男の人との肉体的な関係のこととか、子どもをみごもることとか、産むこととか、恋愛に身をやつすこととか、要するに「性と生殖」に関して、あなたにおしえてくれる人は、おかあさんではありません。誰かほかの人、いわば「斜めの関係」にある人です。この連載の第5回にも書いた助産婦さんかもしれないし、ちがう年上の女性かもしれないけれど、それらのことは、おかあさんじゃない人、からおしえてもらえることが多いのです。

そして、そうした信頼できる年上の女性は、生涯あなたを支える人になるでしょう。

どんな女性があなたの人生に現れるか、楽しみにしていてください。そしてこのことは、おかあさんがいなかったり、おかあさんが嫌いだったりする人に、大丈夫、安心して、ほかの女の人があなたを助けるから、というメッセージでもあるのです。

 

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少女のための性の話

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