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「お股を大切に」少女のための性の話  

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お股ってなに?

 なんというタイトルでしょうか。だいたい、「お股(また)」ってなに? 日常的に使わない言葉ですよね、あんまり。

 要するに、股、のことです。女の子の股のこと。女の子の股、って、品のよい言い方が今ないんですよね。

 男の子だったら、小さいころから「おちんちん」という、ちょっとかわいげな言い方があります。まあ、その部分はおちんちん、だけじゃなくて、ほかのものもあるわけですけど、男の子には「おちんちん」と言えば、なんとなくそのあたりのことを指していることがわかって、よいのですが、女の子の場合、なんと言うのか、ちょっと困ってしまいます。

 ここでは、前回ご紹介した賢い女性の代表、助産師さんたちが呼ぶように、ここを「お股」と呼びましょう。

 お股は大切なところです。わたしたち人間はこの、お股から誕生しますし、おしっこ、うんち、という排泄も担っていますし、子どもをつくったり、産んだりするときにもお股が大活躍するのですから。

 ちょっと前までは、日本の各地方で呼び方があったみたいです。

 関西方面では、「おひし」って言っていたらしい。おひし……お股と同様に、不可思議な響きですが、この呼び名は「お菱」、つまりは菱のかたち、「菱形」からきています。

 菱形とは、ヒシという水草に由来していて、その葉の形とか実の形とか言われていますが、植物のヒシを見たこともない人の方が多いでしょう。「菱形」とは、ようするにダイヤの形、あるいは菱餅の形、と言った方がピンとくるかもしれません。女性のお股を下から見ると、なんといいますか、菱形に見えることからこう呼ばれているのです。

お股に布があたる生活

 今、みなさんはパンツをはいて、お股にしっかり布があたっていますね。椅子に座ったり、自転車に乗ったり、お股になにかが密着するようなことはよくある生活をしていると思いますが、そんな生活が何世代にもわたってずーっと続いていたわけではありません。

 ちょっと前まで、うーん、ちょっとでもないかな、みなさんのひいおばあちゃんが子どもだったころくらいまで、日本の家には、椅子はあまりありませんでした。どの家も畳敷きで、床にぺったりと座っていました。ですから正座がきちんとした座り方でしたし、男の人はあぐらをかいていましたし、床にすわる座り方、というのがあったのです。

 みなさんの中にも、お茶やお花や日本舞踊など日本の伝統文化について習っておられる方があるかもしれませんし、家に仏壇があり、毎日仏壇に手を合わせる方もあるかもしれません。そういう方は、正座をする機会もひんぱんにあることでしょうが、今では普通に日本の家で育つと、正座をすることは、あまりありません。

 みなさんのおばあちゃん世代であるわたしたち50代、60代が子どものころは、ご飯を食べるときも、ダイニングテーブルに椅子ではなくて、ちゃぶ台を置いてそのまわりに正座してご飯をいただくことのほうが多かったのですが、すっかりさま変わりしました。

 わたしのおばあちゃんの世代(つまりみなさんからすれば、ひいおばあちゃんのお母さん!)にとっては、正座は楽な姿勢で、おばあちゃんたちはいつまでも、ちょこんとかわいらしく床の上に座っていたものです。文字どおり、いつまでも座っていることができました。だから、法事などでお寺に行って、長いこと正座しても、みんな平気でした。でも最近のお寺は、本堂に椅子を用意しているところが多いですね。膝が痛くて、正座できないお年寄りが多いのだそうです。

 正座は座りにくいし、足はしびれるし、慣れていないとなかなかたいへんです。正座から椅子の生活へ変わっていったころ、正座すると足が短くなるとか、足の形がわるくなるとか、あまりよくないことをいろいろ言われましたが、もちろんたいした根拠はありません。ともあれ、みなさんはあまり正座をしなくなりましたよね。

おひしがくずれる

 関西方面では、きちんと正座することはとりわけ女の子にとっては大切で、足をくずすと、「お菱がくずれる」と注意されたのだそうです。お菱がくずれる。なんだか聞き覚えのない言い方ですが、いったいどういうことでしょう。

 みなさん、ほとんどやったことがないかもしれませんが、正座をちょっとだけやってみて下さい。膝をそろえ、お尻をかかとの上か、足の裏にのせて、正座するのです。その姿勢で、お股はどうなっているかしら。お股はどこにもあたっていませんね。あ、もちろん、あなたはパンツやズボンをはいているからお股に布はあたっていると思いますが、お股自体はどこにもおしつけられていないのがわかりますか。

 正座していると、お股の菱形は、そのまま保たれているのです。ちょっと足をくずすと、お股は足や床にあたって、菱形は「くずれて」しまうのです。昔の人が言っていたのはそういうことらしい。普段の生活で、お股はなるべくふわっと、そのままどこにもおしつけられていない形にしておきなさい。菱形って、あくまでイメージですけれども、その菱形がくずれないように立ち居振る舞うことは大切なんですよ、という意味が、「お菱がくずれる」という言葉にこめられていたのです。

大切なものをしまうように

 なぜ、お菱がくずれてはいけないのか。この「お股」は、とっても大切なところだからです。言うまでもないですね。わたしたちは食べて、排泄して、眠って、という人間が生きていく基本の営みから自由ではない。お股は排泄機能の最後をになう「門」のようなところだから、ここを大切にしないと、おしっこ、うんちをするときに、まず、困りますね。それにあなたのお股には、おしっことうんちの穴の間に、月経血が流れ出たり、赤ちゃんが出てきたり、男の人と愛を交わしたりするための大切なもうひとつの「門」もある。だから、どう考えても大切なところなのです。

 あなたも大切なものを持っているでしょう。誰かからプレゼントされたちいさなアクセサリーだったり、大好きなボーイフレンドやアイドルの美しい写真だったり、ふわふわとした美しい洋服だったりするかもしれない。ぴかぴかの新しいスマホかもしれないな。そういうものをあなたはどうするでしょうか。大切なものだから、ていねいに扱って、どこかにがつん、とあたってこわれたり傷んだりしないように、とっておきの場所にしまっておいたりするでしょう。その大切なものがその形でふんわりと保たれ、折り目ひとつつかないように、小さな傷ひとつつかないようにするでしょう。

 あなたのからだのとても大切なお股も、そんなふうに扱ってほしいのです。もちろん、お股だけじゃなくて、からだのすべては奇跡のような贈りものだから、ぜんぶ大切にしてほしいですけれどね。

 とくにお股は、女の子にとって、とりわけていねいに扱ってほしいところなのです。

 だからそこがくずれたりしないように、ふわっとした状態で座れるように、正座、というのはじつによき姿勢だったのです。

 日本的な生活をまったくしていないあなたに、むりやり正座してください、と言っているのではありません。ただ、椅子に座るとお股は椅子におしつけられるし、自転車に乗ると、お股はもっともっとおしつけられる。これって、お股を大切に扱っていないのかもしれないな。椅子に長く座った後とか、自転車に長く乗った後に、お股、ごめんね、と、「ねぎらい」の言葉をかけてあげながら、正座の知恵ってすごいなあ、と、昔の人の座り方に感心してみては、どうでしょう。少しだけ考えてみてくださいね。

三砂ちづるプロフィール画像
三砂ちづる (みさご・ちづる)

 1958年山口県生まれ。兵庫県西宮育ち。津田塾大学国際関係学科教授、作家。京都薬科大学卒業、ロンドン大学Ph.D.(疫学)。著書に『オニババ化する女たち』、『昔の女性はできていた』、『月の小屋』、『女が女になること』、『女たちが、なにか、おかしい』、『死にゆく人のかたわらで』、『五感を育てるおむつなし育児』、『少女のための性の話』、訳書にフレイレ『被抑圧者の教育学』、共著に『家で生まれて家で死ぬ』他多数。
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