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「お産ってどんな経験?」少女のための性の話

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あなたのおなかの中で

知らない経験は不安。やったことがないことは心配。初めてやることはどきどきする。誰だってそうだし、なんだってそうです。一度やったあとは、なあんだ、心配するほどのこともなかったな、大丈夫だったな、って思うことは多いのではないかしら。

初めて学校という所に足をふみいれたときの緊張、転校して何も知らないクラスに入っていってあいさつするときの心配、知らない町に住みはじめるときのどきどき。

あなたの人生には、これから、たくさんのやったことがないことを初めてやる、という状況がたちあらわれてきます。すごくうれしいことも、ちょっと悲しいことも、びっくりするようなこともあるけど、どんな経験も、あなたを今までのあなたより成長させる。

やってみるまで想像もつかない経験。女性にとってそのような経験の筆頭はやっぱり「お産」ではないでしょうか。

あなたのおなかに、別のいのちが宿る。赤ちゃんができたら、おなかがだんだん大きくなる。5カ月くらい育つと、おなかの赤ちゃんが動き始める。あなたのおなかの中で、なにかが動いている、なんて、ちょっと想像もできないですよね。

妹や弟が生まれた人とか、親戚や近所のよく知っている人におなかが大きい人がいたら、はちきれそうなおなかにちょっとさわらせてもらったことがあるかもしれないですね。女の人のおなかの中では赤ちゃんが育つ。それはもう、この世でいちばんのふしぎなことです。あの大きなおなかから、赤ちゃんはどうやって出てくるのでしょう。

お産はこわい?

ひょっとしたら、あなたはお産について、けっこうこわい話を聞いているかもしれない。ものすごく痛い、鼻からスイカ出すみたいに痛い、それどころか鼻からピアノ出すみたいに痛い(それってどういうこと?)、赤ちゃんは血まみれで生まれてくる……などなど。

学校の保健や理科の時間に、お母さんたちが苦しんで、血まみれの赤ちゃんが生まれるビデオなどを見せられることもあるみたい。そんなビデオを見せられたら、そりゃあ、こわい、と思いますよね。それに産院や病院がなくなって、「お産する場所がない」なんてニュースが耳に入ってきたりもする。それでなくても未知の不安な経験なのに、めちゃくちゃ痛い、とか、血まみれ、とか、産むところもない、なんて聞いたら、もっと心配になりますよね。

人間は、悪いことやひどいことばかり言ってしまうところがある、ということをちょっと頭においてください。ふつうに、おだやかに暮らしていることがニュースにならないように、記録されている歴史の中の出来事は、ぜんぶ、戦争とか内乱とか特別な事件であったりするように、わたしたちはついつい「ひどい」ことを話題にし、「よくない」ことを誇張して言ったりしがちです。でもその裏にはいつもおだやかな日常があるのだ、ということも、記憶にとどめておいてください。

古今東西、世界中の人間、いま、あなたが出会うことができるすべての人々もみんな、女の人のおなかから産まれてきたのです。ひとりの人間がいるということは、その人を産んだお母さんが必ずいるということ。お産は人生でとても重要なイベントだけど、でも、世界中で行われてきて、人間が始まったときからずっと続いていて、今も続いている「ごくふつうのこと」です。

そんなに長く続いていて、そんなに世界中どこでもやっていることなんだから、「そんなにひどいことであるはずはない」、とまずは思って下さい。それがほんとうにひどいだけ、つらいだけ、産む世代を苦しめるだけの経験だったら、ここまで人間は続いていないし、むしろ、違う経験へと長い時間をかけて“進化”をとげた可能性だってあるかもしれない、と思うくらいです。

ふわっ、きゅーっ

妊娠した女性は、子どもを産む力があります。おなかの中で育つ子どもには、自分で生まれてくる力があります。お母さんと赤ちゃんが協力し合えば、お産はスムーズに進みます。赤ちゃんがおなかの中で育って、もうそろそろ外の世界に出てもいいな、と思うと、赤ちゃんはお母さんのからだにサインを送るらしい。そうすると赤ちゃんの入っているお母さんの子宮が、赤ちゃんを押し出すために、少しずつ収縮しはじめます。

お産の痛みを「陣痛」といいますが、それは、この子宮が収縮する痛みのことなのです。お母さんのおなかってふわっとしているのですが、子宮が収縮するとおなかは固くなります。おなかの中にいる赤ちゃんの気持ちになってみてください。おなかの中にいて、もうそろそろ出ようかな、と思いはじめると、お母さんの子宮が収縮し始めます。いままでふわっとしていた子宮がきゅーっと赤ちゃんの体に密着するように自分の身体にくっつきます。そしてまたふわっと収縮がなくなる。そしてまた収縮する。これをくりかえしていると、子宮口という子宮の入口(赤ちゃんにとっては、出口)が少しずつ開いてくるのです。

ぎゅーっと収縮しては、ゆるむことが10分おきくらいで始まり、赤ちゃんが産まれる頃になると、もっと間隔が短くなります。海の波が押しては返すように、子宮が収縮したり、ゆるんだりします。お産の痛み、というのはおおよそ、この「収縮の痛み」のことです。だから「鼻からスイカを無理矢理出す」(ほんとに大げさ)とか、刃物でばっさり斬りつけられる、とかそういう痛みではありません。収縮している間は確かに痛いのですけど、それは「ぎゅーっと絞るような痛み」なので、斬りつけられたり、殴られたりしたような痛みとは、ちょっと違ったものです。

それは波のように、収縮したり、ゆるんだりする繰り返しなので、子どもを産んだ人の中には、「収縮しているときは確かに痛いんだけど、収縮がおわって次の収縮までの間は、すごくきもちよくて、眠りに引き込まれそうになったりする」なんて言います。ひいては返すような、収縮と弛緩(ゆるむこと)を繰り返し、そのリズムにうまく乗ると、ものすごく気持ちがいい、とお母さんたちは言います。

そして、助産師さんや周りの女性は、収縮して痛いときは、からだをさすってくれたり、励ましてくれたり、うまくリズムに乗れるように助けてくれます。「痛いけど気持ちいい経験だった」という人も少なくないんですよ。陣痛の波にゆだねていると、まるで宇宙の塵になってしまったり、時間の感覚がなくなってしまったりするような、今までまるで経験したことのなかった感じを味わうことも、少なくありません。

すてきな経験が待っている

そして、赤ちゃんを外の世界に押し出すとき。女性が自分の力を使って、赤ちゃんも自分の力を使って自然に生まれてくるときは、切られる必要もないから、赤ちゃんは血まみれではありません。病院なんてどこにもない太古の昔から人間は生まれてきたのに、毎回血まみれで産まれていたらたいへんです。イヌやネコを飼っている人は、子イヌや子ネコが生まれるときを見たことがあるかもしれませんね。子イヌや子ネコが血まみれで産まれないように、自然に産まれるときは、人間の赤ちゃんも血まみれにはならないのです。

赤ちゃんが自分のからだから出てくる感覚は、とても気持ちがよくて、産んだすぐ後に「ああ、またすぐもう一人産みたい」なんて言ってしまうお母さんがいるくらいです。そして結構少なからぬ人が、陣痛って痛かったけれど、またすぐ次の子どもを産んでしまうのですね。

お産って、想像もつかないでしょうけれど、すごくすてきな経験ですよ。唯一無二の、女性だけが経験できるとくべつな体の経験。そういうことが将来待っているかもしれない、と、少女のあなたにわくわくしていてもらいたい、そう思います。

 

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少女のための性の話

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