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「奇跡のプロセス」少女のための性の話

少女のための性の話_三砂ちづる_ヘッダー画像

受精卵を赤ちゃんにまで育てる

何が不思議、といって、女の人が人間をつくることができる、ということほど不思議なことはないように思います。精子と卵子が出会い、受精卵となり、その受精卵が細胞分裂して大きくなって赤ちゃんになります……、という話は理科とか保健の授業で聞いてきたことでしょう。

あっさり説明されると、はい、そういうことですか、と思うだけかもしれませんが、これほどすごいことはない、と思いませんか。

女の人の子宮は、受精卵を、赤ちゃんにまで育てあげるのです。しかも、ほとんどの場合、完璧な一人の赤ちゃんになるのです。無事に生まれるまで育たなかったり、病気やなにか体に不都合があることもある。しかしそうだとしても、みごとに育って生まれてきます。あなたがこの世に生まれてきたように。もちろん人間だけではなくて、他の動物もみんなそうですが、親と同じような姿に育つ個体が、メスのからだの中で育ちます。

自分のからだのことを、しみじみとながめたことはありますか。あなたの顔があり、頭があり、胴体があり、手があり、足がある。からだをさすると皮膚があり、その下には、筋肉や脂肪や内臓や骨がある。理科室で骨格標本を見たことがあると思いますが、あのとおりの骨が、あなたのからだのなかで、再現されているのです。

みごとにつくりこまれた人間のからだ、このからだはあなたを生んだお母さんのからだの中でつくられていった。奇跡といって、これほどの奇跡はないと思いませんか。

「女はこどもを産む機械」などという、心ないことばが吐かれた時代もありましたが、いまは、そのようなことばはゆるされません。女は人間を育て、こどもを産む人間です。卵子と精子の出会いからできた受精卵をはぐくみ、人間のからだにつくりあげ、そのこどもを世の中に送り出す。女は、そういう人間です。そして女のからだには、もとになる卵子があります。卵巣、というところに。

「卵子のもと」をもって生まれてくる

女の人には卵巣があり、男の人には精巣があります。男の人の精巣はからだの外にありますから、見えます。俗にいう、おちんちんの根本にくっついている「タマタマ」(日本では昔からキンタマ、とかいわれてきましたねえ……)が、精巣です。精子は大人になった男性の精巣で、つぎつぎ新しくつくられています。精巣に、生まれたときから一生ぶんの精子がある、というわけではありません。

しかし女の人の卵巣には、生まれたときに、すでに卵子になるだけの「卵子のもと」、が用意されています。この「卵子のもと」を原子卵胞(げんしらんほう)、といいます。

女の人が赤ちゃんとして生まれたとき、卵巣には、だいたい左右各500万個ずつの原子卵胞がある、といわれています。この原子卵胞のうち、多くの場合、400個くらいが女の人の一生のうちに「卵子」として育っていき、生理がある間、毎月一個ずつ排卵されます。

この「女の人の生理がある時期」と「女の人が排卵する時期」は、ほぼ同じ時期です。この時期のことを「生殖期」、カタカナで「リプロダクティブ・フェーズ」、といいます。

英語で書くとreproductive phase。英語を勉強している人にも難しい単語です。reproductiveは、reproductionという単語がもとになっています。productionは「生産」、reは「もう一回、再び」という意味なので、reproductionは、文字どおり「再生産」。つまりは、女の人が自分と同じ個体を再生産できる、ということを意味しています。簡単にいえば、リプロダクティブ・フェーズとは、女の人がこどもを産める時期。「女の人の生理がある時期」と「女の人が排卵する時期」と「女の人がこどもを産める時期」、これらは、だいたい同じといいましたが、いったいいつ?

子どもを産める期間は、どれくらい?

生理がはじまったとき、おかあさんや周りの人に、この生理は何歳まであるのか、聞きましたか。聞いていない人も、いるかもしれない。あなたを産んだおかあさんは、おそらく、まだ毎月生理があるでしょう。でもあなたのおばあちゃんは、もう、生理はない人も多いと思います。

だいたい40代後半から50代のはじめくらいまでで、生理がなくなる人がほとんどです。これを「閉経」といいます。閉経するまで、妊娠、授乳しているときをのぞいて、だいたい毎月生理があるのです。女性のリプロダクティブ・フェーズ、つまり生殖期はだいたい30年から40年くらいの間。これを長いと思うでしょうか、短いと思うでしょうか。

日本女性の平均寿命は、80歳を越えて久しい。日本女性の人生を80年、と考えると、その半分か、半分より少ないくらいが生殖期、つまりこどもを産むことができる時期です。

でも、生理があるあいだ、ずっとこどもを産めるわけでも、ありません。十代前半のあなたのからだは、まだこどもが産めるほど成熟していないし、閉経直前もまた、なかなか妊娠しにくいのです。

この文章を読んでくださっているあなたは、生理がはじまっているかもしれないし、まだ、はじまっていないかもしれない。12歳くらいではじまる人がいちばん多いようだけど、10歳になる前にはじまる人も少なくないし、15歳より遅れる人も少なくありません。

わかっていることは、「女性の初潮年齢」は先進国では近代化とともに、どんどん早くなっていった、ということです。みなさんのおばあちゃん、いまの50代から60代の人たちが、みなさんくらいの年齢のころ、すでに初潮年齢が早くなっていて、小学校高学年で生理がはじまる人は、少なくありませんでした。

でも、そのおばあちゃんくらいの世代(みなさんから見れば、ひいおばあちゃんのそのまたおかあさん)には、18歳で初潮を迎える人は、ちっともめずらしくありませんでした。むしろ10代前半で初潮、という人は少なかったといいます。なぜ、世の中の近代化とともに女性の初潮年齢は早くなっているのか。その理由は、わかりません。

むかし50回、いま500回

女性がこどもを産み育てる、という奇跡のプロセスの詳細について、じつは、科学で解明できていないことの方が多いのですが、この「世の中の近代化とともに女性の初潮年齢が早くなる」、も、よくわからないことのひとつです。

女性の初潮にあたることを、男性では、精通、といいます。精子がつくられからだの外に出される。この年齢はじつは世界中であまり違わず、だいたい15歳前後だそうで、社会の近代化に影響を受けていないようです。男性の方は少しも変わっていない、女性ばかりが早く初潮をむかえ、早く大人になる。これはどういう意味があるのでしょうね。あなた方の中には、将来、こういうことを研究しよう、と思う人も出てくることでしょうから、そのこたえは、あなた方の世代にお任せしたいと思います。

あなたのおばあちゃんの、そのまた、おばあちゃんの世代、15歳から18歳前後で初潮を経験すると、ほどなく、結婚してしまう人が多かった。

このころの結婚は、本人たちが愛し合って結婚しましょう、というものではなくて、家同士で結婚を決めることが多かったので、そんなに若くして結婚していたわけです。そして10代後半からこどもを産みはじめ、40代はじめまでに、たくさんのこどもを産んでいましたから、生理は生涯で50回くらいしかなかった、といいます。

いまの女性たちは初潮も早くなり、こどもを産む数も減り、産まない方も増えましたから、この生殖期での月経回数は、生涯で500回に近い、といわれています。それならば、月経や卵子のこと、子宮のこと、ぜひいろいろ楽しく理解していきたいものですよね。

 

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少女のための性の話

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