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「海外で生理になったら?」 少女のための海外へ出ていく話

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スーツケースにナプキン詰めて

 生理の時、どうするのかなあ。

 それは、どこか見知らぬ土地に行くときに、女の子なら誰しも考えることでした。

 いまは、日本中どこでもコンビニがありますし、24時間営業を考え直そうと言われているとはいえ、現段階ではおおよそ24時間あいていますし、突然生理になってしまって、生理用品を持っていなくても、コンビニに行けばいいんだから、特に困ることはないかもしれません。でも、急に生理になってびっくりして、困った、というのは誰しも一度は経験したことがあるでしょう。

ファーマシー看板

 世界中あちこちに長期で出かけていたころ、まずは生理用品のことが心配でした。手に入るのだろうか。よいものがあるのだろうか。捨てるのに困ることはないだろうか。

 最初にアフリカにボランティアで出かけて行った時、現地で買えないだろうと思って、山ほどの生理用ナプキンを持ち込みました。これは私だけではなく、けっこう周囲の女性たちも、いざ、外国で暮らす、しかも開発途上国で暮らす、ということになると、スーツケースひとつ全部生理用品を詰めて持ち込む、ということをしていた人もいました。

 アフリカの村で半年くらいフィールドワークをする友人がいましたが、彼女は「フィールドに入ると生理がなくなる」と言っていました。生理用品は持ってはいくけど、実際には、フィールドにいると生理がない。大きな環境の変化自体が、からだにはストレスと感じられていたのかもしれません。

 あなたもきっと便利な生理用ナプキンや、ときおりはタンポンなどのお世話になっていることと思います。それらはできるだけ女性たちの負担を軽くし、生理中もらくに、できるだけ普段通りに過ごすことができるように工夫されて作られてきたものです。

 でも、そういうものがずっと昔からあったわけでもないことは、想像できると思います。もちろん、使えるときは、この便利な生理用品を使えばよいし、持ち運べるところには持っていけばよいとは思うのですが、もし、別にこういうものがなくても、生理になっても大丈夫だな、という方法もおぼえておくと、海外にでむくときには安心できるのではないでしょうか。また、海外へ行く時に限らず、ほかの生理用品が手に入らない状態でも対処可能である、ということがわかっている、というのは、悪くないことのような気がするので、紹介してみたいと思います。

トイレ

手に入らない時の対処法

 「月経血コントロール」ということばを聞いたことがありますか。文字どおり、あるていど、月経の時、コントロールして、できるだけ、トイレで出しましょう、ということです。

 いや、そんなこと、無理、と思われるかもしれませんし、そんなにぴったりコントロールできるわけではない人も多いのですが、なるべく「意識」して、「出そう」になったら、「できるだけトイレで出す」というものです。医学的にできるとかできないとかいう話でもなく、なるべく気をつけてみて、「出そうなら出しに行く」という程度の「意識」のことです。

 ふだん、ナプキンを当てている、ということは、「おしっこやうんちとちがって、月経血はコントロール不能で、“垂れ流し”状態なのである」ということが前提ですよね。コントロールできないから、ナプキンで受けるのです。

 でも、おしっこやうんちみたいにピタッとコントロールできなくても、なんとなく「月経血が出る感じ」って、みなさん経験したことがあるのではないでしょうか。生理中に椅子に座っていて、立ち上がる時、どろっと経血がでる感じはわりとだれでも経験したことがあると思います。そういうことがわかるのなら、もうすこし気をつけてみれば、月経血が出るのは、わかることなのかもしれない、と思いませんか。

 具体的に「月経血コントロール」をやってみたい、と思う人があれば、まず生理中トイレに行った時に、できるだけ腹圧をかけて(ようするにうんちするときみたいにすこしだけ力をかけて)月経血を出してみよう、とすることから、始めるのがいいと思います。

 洋式トイレよりも和式トイレの方が腹圧がかけやすいですが、いまどき、和式トイレなんて使ったこともない、という人も多いでしょうから、別に普通の洋式トイレで構いません。量が多いときに、トイレで座って少し腹圧をかけると、便器が真っ赤になるくらい経血が出ることも少なくありません。そうやって、「出るときに出しておく」と、しばらく出ないし、

 「出そうと思って出す」ことをトイレでやってみると、「月経血が出る」ということを比較的よく意識できるようになります。

 そうすると、だんだん、「あ、出そうだな」というのがわかれば、トイレに行けばいい、というふうな感じがわかるようになります。出そうになったら、ちょっと「おしも」を締める感じにしながらトイレに行って出すのです。そうすると、ナプキンをつけていても、だんだん、「月経血は自分で出す」という感覚がつかめるようになってきます。

 私の周囲では、「月経血コントロール」と「布ナプキン」を組み合わせている方が少なくありません。この「月経血コントロール」にトライしていると、だんだんナプキンがよごれなくなってきたりするので、わざわざ使い捨てのナプキンを使うのがもったいなくなってきたりするし、布ナプキンのほうが肌に優しいし、使いやすい……、と感じはじめる人も少なくないのです。

日没に佇む女性

あっても、なくても

 できないな、と思う人は、よい生理用品がある現在、無理をする必要はありません。でも、そうやって昼間に「出そうなときにトイレで出す」ことをやっいると、夜に月経血が出なくなる、という方も少なくありません。夜はとても分厚いナプキンをつけていたのに、昼間、「意識」するようになると、なぜか夜も月経血が「垂れ流し」状態ではなくなり、朝起きて、トイレに行って出せる、という人も出てくるのです。

 私の知り合いの若い女性には、「けっこうよくわかるようになってきたので、ナプキンは全く必要がなくなった。ティッシュのようなものをすこしあてておけば、自分でわかるので大丈夫」という方もいます。その方によると「なぜあんなに毎月たくさんのナプキンが必要だったのか、いまとなってはよくわからない」そうです。

 無理をする必要はありませんが、そもそも、そういうことができるのかもしれない、と思うだけで、月経が少し楽しみになったりするのではないか、と思います。

 「月経血コントロール」ということについて研究を始めたころ、わたしは40をすぎて、もう、閉経までそんなに時間がないな、というころでした。

 これは、便利な生理用品が存在しないころ、女性たちは生理の時どうしていたのだろう、という疑問から始まった研究でした。いまわたしたちが恩恵を受けている、薄くて吸収力があって、やさしい形の生理用ナプキンや、とてもつかいやすいタンポンは、メーカーさんのご尽力の賜物なのですけれど、どう考えても昔からあったものではありません。

 生理がある時期を、英語でリプロダクティブ・フェーズと言いますが、わたしはもう、それをすぎてしまって、生理がありません。生理がなくなることを閉経、といいます。

 いまでは平均12歳くらいで初潮を迎える人が多く、40年近く、妊娠、授乳していないときはだいたい毎月生理と付き合って、50歳前後で閉経、というのが最も多いパターンのようです。私もだいたいそのくらいの年齢で閉経しました。

 女性が閉経する時期を更年期とも呼び、体調が悪くなる人が少なくない、とも言われますが、私自身はとくに何かつらいことがあったわけでもありません。まわりにも、更年期も体調良好だった人は少なくありませんでした。

 閉経したら、どこか旅先で急に生理になる、といった心配をしなくていいし、よごすことを気にして薄い色の服は避けることも、しなくてよくなりました。

 生理があったときも、毎月リズムがあってよいものでしたが、なくなったらなくなったで、はればれ、ひろびろとした気持ちで毎日を暮らしています。なくなったらなったでよい時期なのですが、生理があるときは、女性として最も輝いている時期でもあります。どうぞ毎月、楽しみ、また、海外でも工夫しながら健やかに暮らしてもらいたい、と思います。

三砂ちづるプロフィール画像
三砂ちづる (みさご・ちづる)

 1958年山口県生まれ。兵庫県西宮育ち。津田塾大学国際関係学科教授、作家。京都薬科大学卒業、ロンドン大学Ph.D.(疫学)。著書に『オニババ化する女たち』、『昔の女性はできていた』、『月の小屋』、『女が女になること』、『女たちが、なにか、おかしい』、『死にゆく人のかたわらで』、『五感を育てるおむつなし育児』、『少女のための性の話』、訳書にフレイレ『被抑圧者の教育学』、共著に『家で生まれて家で死ぬ』他多数。
 

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