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「第10回 日本人とはだれですか?」 少女のための”海外へ出ていく”話

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大坂なおみは日本人か

 テニスの大坂なおみ選手が大活躍しています。今や世界一の女子テニスプレイヤーで、性格もとても魅力的な方みたいですね。彼女の活躍を見て、テニスをしてみたくなったなあ、という人も多いのではないでしょうか。

 彼女の活躍自体が、「日本人」というイメージを変えていっているな、と思うのは私だけではないでしょう。いわゆる東洋人の風貌をして、日本語を母語として話すのが日本人だ、という「固定観念」はとても強いのですが、彼女は、お父さんがハイチの方で、みかけもいわゆるイメージされる「典型的日本人」ではないし、日本語も話されますが、そんなに流暢ではありません。でも、まぎれもなく日本人です。

 日本人にもいろいろな人がいるのだ、ということを彼女はその存在だけで、多くの人に教えてくれている、と思います。

 いわゆる「典型的日本人」と私たちが思っているような東洋的な風貌ではない日本人は、今では、たくさんおられます。日本人と外国人の「ハーフ」(今は、半分、じゃなくて、両方の特徴を持っている「ダブル」と呼ぶ方がいい、ともいわれていますね)も本当に増えました。私自身の息子たち二人も、父親がブラジル人ですので、いわゆる「日本人とブラジル人のハーフ」です。

ハイチの砂浜と椰子の木

イメージと偏見

 日本人、ということに典型的なイメージがあるように、ブラジル人、にも私たちには、典型的なイメージがあると思います。そういう典型的なイメージのことをステレオタイプ、といいますが、ステレオタイプな見方は、偏見につながりやすいのです。

 ブラジル人、といえば、褐色の肌に、踊りが好きな、とても明るい人たち、というイメージでしょうか。世界の人種のるつぼ、といわれるブラジルです。たしかに、いろいろな人種がまじりあった、褐色の肌の人がブラジルには多いのですが、実際には、考えうる限り全ての肌の色のバリエーションがブラジルにはある、とも、言われています。

 先日、ブラジルから帰ってきた人が、とてもすてきなものをみつけたのよ、とブラジル製のクレヨンをみせてくれました。12色くらいあるそのクレヨンは、ブラジルの人の肌色のバリエーションなのだそうです。白っぽい色から私たちがクレヨンで使う肌色のような色、そしてだんだん褐色が濃くなっていく。ブラジルで人を描くときに、肌の色として使える全ての色が用意されたクレヨンなのでした。

 ブラジルの元々の住人はアマゾン森林などに住んでいた、インディオと現地で呼ばれている原住民の人たちです。そのほかは、ヨーロッパやアラブの国やアフリカやアジアなどから移住してきた人たちと、その混じり合った人たちの子孫です。だから、どんなみかけの人でも、「ブラジル人」であり得ます。多くのブラジルの人たちが話す言葉で、学校でも教えられているポルトガル語を話せば、「ブラジル人」になりえる、という感じです。

 移民の国ですから、「あなたはいつブラジルにきたの?」と聞かれて、「おじいちゃんの代に」と言うか、「6カ月前に」と言うか、の違いくらいです。ヨーロッパ系の人は、いわゆる白人だし、ブラジル人口の1%は日系人だし、アフリカ系の人も多い。ほんとうにいろいろな人がブラジル人、なのです。

 私の息子たちの父親は、イタリア、スペイン、ポルトガルの混じったヨーロッパ系のブラジル人でしたから、いわゆる白人なので、息子たちは「白人と東洋人のミックス」という感じです。先ほど申し上げたように、「褐色の肌のブラジル人」というステレオタイプがあるので、息子たちは、ヨーロッパ、北アメリカ系のミックスの子どもだと思われることが多かったようです。

 

国籍と見た目はちがう

 最初に戻りますが。日本人って一体なんでしょうか? 日本の国籍を持っている人ですか? 日本人の親を持つ人のことですか? いったい、「○○人である」というのはどういうことなのでしょう。国籍と、その人が何人(なにじん)であるのか、ということと、そのひとの「みかけ」というのはぜんぜん別のことなんだ、というのは、冒頭に書いた大坂なおみさんの例のように、多様な日本人についての理解が深まりつつあるので、うすうすわかってきている人も多いと思います。

 もう30年以上も前のことになりますが、ロンドンで暮らしていた頃のことです。モザンビークの人たちがたくさん集まるパーティーがありました。モザンビークというのは、南部アフリカにある国です。旧ポルトガル領でしたから、ポルトガル語が公用語です。

 多くのヨーロッパの国に植民地化された厳しい歴史を持つアフリカでは、旧宗主国の言語が、今も公用語として使われている国がたくさんあります。アフリカにはもともと多くの言語があるので、共通語としてこういった旧宗主国の言語が使われていることが多いのです。

 ケニア、タンザニア、ウガンダ、など東アフリカの国では英語が使われていることが多く、セネガル、コンゴ、カメルーンなど西アフリカや、モロッコ、チュニジアなど北アフリカの国ではフランス語が多く使われています。ポルトガルが旧宗主国であって、ポルトガル語が共通語として今も使われているアフリカの国をPALOPS(Países Africanos de Língua Oficial Portuguesa: ポルトガル語で“ポルトガル語を公用語とするアフリカの国々”という意味です)とよばれていて、アンゴラ、モザンビーク、ギニアビサウ、カポヴェルデ、サントメプリンシペ、と、5カ国あります。興味があれば、アフリカの国と、現地の言葉、公用語、などについてぜひしらべてみてください。

水晶玉

「あなたもモザンビーク人?」

 私の息子たちの父親であるブラジル人ドクターは、革命後のモザンビークでしばらく働いていたので、モザンビーク人にたくさん知り合いがいましたから、一緒にパーティーに招かれることがありました。出かけて行くと、私は、モザンビークの人に「あなたもモザンビーク人?」と聞かれるのです。

 私は思わず周りを見回しました。私にとってアフリカの国、モザンビークの人はみんな黒人の人たちだ、というそれこそステレオタイプな思い込みがありましたので、まさか、典型的オリエンタルな風貌の私が「モザンビーク人」だと誰かに思われるとは、考えていなかったのです。でもそのあと、白人のモザンビーク人にも、アジア系のモザンビーク人にも会い、あたりまえのことではありますが、ああ、そうか、モザンビークに黒人の人は多いけれど、白人もアジア人もアラブ人もいる。国籍としてのモザンビーク人はどのような人もいるのだ、とやっとわかった次第です。

 ですから、日本人とはだれですか? と聞かれたら、まずは「日本の国籍を持っている人」のこと、という考え方は、あると思います。そして、日本国籍を持っている人は、見かけが東洋系の人に限りません。日本の国籍を持つ人にはいろいろな人がいるのです。たとえば、外国の人が日本で働き、日本で住んで、日本の国籍をとろうと思ったらどうすればよいのか、ということなども調べてみてほしいと思います。国籍を取得する、というのは、実はても大変なことで、とても時間がかかることです。日本の国籍を持つ人と結婚したからといって、すぐに日本の国籍が取れるわけではないのです。

 では、日本の国籍を持っていない人は、日本人、と呼ばないのでしょうか。ブラジルには、1%の日系人がいる、といいました。明治時代以降、多くの日本人がブラジルに移住し、今、その4世代目、5世代目の子孫がブラジルに住んでいます。その人たちの国籍はブラジルですけれど、彼らは自分のことをブラジルでは「日本人」と言ったりしています。自分たちのルーツをいつも意識しているのですね。

 国籍を持っているということ、あるいは自分のオリジンがどこであるか、ということ。「xx人です」という言い方は、とても多くの意味を含んでいます。アイデンティティ、という問題にも関わってきますから、海外に興味のあるあなたは、ぜひ、こういったことも勉強してみてください。

三砂ちづるプロフィール画像
三砂ちづる (みさご・ちづる)

 1958年山口県生まれ。兵庫県西宮育ち。津田塾大学国際関係学科教授、作家。京都薬科大学卒業、ロンドン大学Ph.D.(疫学)。著書に『オニババ化する女たち』、『昔の女性はできていた』、『月の小屋』、『女が女になること』、『女たちが、なにか、おかしい』、『死にゆく人のかたわらで』、『五感を育てるおむつなし育児』、『少女のための性の話』、訳書にフレイレ『被抑圧者の教育学』、共著に『家で生まれて家で死ぬ』他多数。

少女のためのシリーズ「少女のための性の話」

少女のための性の話

 

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