- Home
- [Webマガジン]少女のための“海外に出て行く”話
- 「エコノミークラスで快適に過ごす方法」 少女のための海外へ出ていく話
最新記事
2.252020
「エコノミークラスで快適に過ごす方法」 少女のための海外へ出ていく話
飛行機の座席クラスって?
よほど裕福な環境で育った方ではない限り、海外に行く時の飛行機は、エコノミークラスのチケットで搭乗すると思います。
飛行機には、ご存知かと思いますが、ファーストクラス、ビジネスクラス、エコノミークラスと、どの航空会社でも大体3つのクラスがあり、チケットの値段も、クラスを上げようとすると、倍どころではなく、ものすごくちがうものです。
ふつうは、エコノミークラスに乗ることになります。いまどきのビジネスクラスは、座席がベッドのように完全にフラットになって、プライバシーも保てる、夢のような構造になっているものも少なくないのですが、その名もビジネスクラス、ですから、いわゆる出張、としてビジネス経費が出るとき以外は、よほど余裕のある方しか使わないものです。いや、本当にお金に余裕のある方、は、子どもの教育のため、家族で旅行しても親はビジネス、思春期の子どもはエコノミークラスに乗せる、とか聞きましたが……。ほんとうのところはよくわかりません。
とにかく、航空チケットの中では価格が低いエコノミークラスは、座席が、せまい。足もまっすぐ伸ばせないし、背もたれも少しくらいしか、リクライニングしません。せまい場所でずっとじっとしていることによって、血流に問題が出て、からだにいろいろなトラブルが発生することを「エコノミークラス症候群」と呼ぶくらいです。行き先によっては、十数時間も同じ飛行機に乗っていなければならないこともありますし、そこから乗り換えてて、さらに旅行を続けなければ目的地に着かないこともあります。そこで今回は、エコノミークラスの座席で快適に過ごせる工夫について考えてみます。
眠るタイプ、眠らないタイプ
長時間のフライトをどのように過ごすか、というのは、本当に人によって違います。いくら狭くても、いくら横になれなくても、何が何でも、眠ります、ということにしている人もいるし、いや、まず眠れないので眠りません、という人もいます。
わたしはあまり眠らないほうです。十数時間のフライトに乗る、ということは、多くの場合、日本と時差の発生するところにいくことが多いですね。わたし自身は、うとうとしたりしますけれども、本格的にはあまり眠らない、というか眠れないので、機内では眠らないことが多い。そして到着したら、そこの夜になるまでなんとか起きていて、夜に、眠りにつきます。そこでぐっすり眠れたら、「時差ボケ」が割と楽に解消できる、と、経験上わかっているので、なおさら機内では無理に眠ろうとしません。できるだけ動くように、あるいは座席にいても、足などを軽く動かすようにしています。眠らないのであれば、少しでも体を動かせることが「エコノミー症候群」の予防にもなると思うからです。
私のように機内であまり眠らない場合は、座席は通路側の席を取るのが良いと思います。通路側の席にいると、シートベルトを外しても良い時間になったら、他の人の邪魔にならず、自由に移動できます。トイレに行ったり、通路を少し歩いたり、トイレの前あたりの少しスペースがあるところで軽く体を動かしたりすることができます。大きな動きで時間のかかるような体操は、迷惑にもなるし、場所もないので、機内ではとてもできませんが、「ゆる体操」(*1。ウェブでも調べてみてください)などで、足や肩を他の方の迷惑にならないような範囲で、そっと、動かすようにしています。「ゆる体操」は、かたまっている体を少しずつほぐしていくような小さな動きをたくさん組み込んでいる体操ですから、機内での軽い運動には最適だと思っています。からだを少しなりとも動かしながら機内での長い時間を過ごすと、到着後の疲れがかなり違いますし、到着地の夜、眠りにつきやすくなるのでおすすめです。
イギリスの大学で働いていた時の同僚に、「僕はとにかく長時間フライトでは寝たいので、窓際でなければ、5人座席の真ん中を取る」と言っていた人がいました。ふつう、窓側と通路側に挟まれた真ん中の席は、あまり好まれません。以前よく飛んでいたジャンボジェットには、真ん中に5人並びの席、というのがあり、そのうちの真ん中の席は普通みんな座りたがらなかったものですが、彼は、真ん中だと誰にも邪魔されずに眠れるから、と言う。いろいろな人がいるものだ、と思いました。
あなたも長時間フライトで眠れるような方でしたら、窓際とか中央の席も良いかと思いますが、慣れないうちは、まず通路側を選んで、なるべく体を動かしたり、席を立ったりしながら過ごすのが良いかな、と思います。
必要なものはかばんに入れて
エコノミークラスの座席では、足をまっすぐ伸ばせない、と書きました。長いフライトでは足をずっとおろしたままではつらいので、少しでも伸ばせると楽です。座席の下には荷物を置くことができますから、わたしはエコノミークラスでは、足を置ける程度の大きさの荷物を手荷物でもちこむようにしています。つまり、飛行機では自分の前の座席の下に、自分の荷物を置けるようになっていますから、そこにおいた荷物の上に、自分の足を置けると、少しなりとも足を伸ばすことができるというわけです。足を置いてもいいような荷物の作り方をして、そのようなかばんをもちこむとよいかもしれません。
「空港で預ける荷物」は、「なくなる可能性がある」、「なくならないまでも、自分と同時に空港についていない可能性がある」ということを、「第9回 飛行機と荷物と」で書きました。一回のフライトではなく、乗り継ぎ便があるときほど、荷物がなくなる可能性は増えますが、直行便だからと言って、預けた荷物が必ず着くとは限りません。本当になくなってしまった場合は航空会社に補償を求めることになりますが、そこまでいかなくても、自分の荷物が着くべき都市ではないところに運ばれてしまったり、あるいは、預けた空港内で迷子になってしまったり、ということは、そんなに珍しいことではありません。預けた荷物が出てこないことをロストバゲッジと呼びますが、しょっちゅう飛行機に乗る人は、けっこうロストバゲッジを経験しています。完全になくならないまでも、自分の手元に荷物が戻ってくるまで結構な日にちがかかることがあるのです。
そういうことがあるわけですから、到着したときにさしあたり困らないような最低限の着替えと、どうしても必要な書類、そして、こちらは「第17回 暑い季節の寒さ対策」で書きましたが、寒さ対策になるようなショールなどをもって搭乗しましょう。エコノミークラスに乗るときの「前の座席の下に置いて足を乗せられるような荷物」には、そういうものを入れておくといいですね。小さなトランクのような形のキャリーケースは機内持ち込みの荷物に便利ですけれど、足元に置くことはできません(足元に置くには大きすぎる)から、足置きにするための荷物はリュックサックのようなものが便利でしょう。
映画や本を読む時間にも
慌しい日常から離れることができ、黙って乗っていたら目的地まで連れて行ってくれる長距離フライト。もちろん眠ったり体操するだけでなく、このときとばかりに、観たい映画や読みたい本を読む、という楽しみをみつけることもできます。以前は乗ったフライトによって、一本の映画をみんなで観る、というシステムでしたが、いまはいろいろなラインナップの映画を観ることができる長距離フライトも増えました。見落としていた映画や、まとまった時間がないと観られない映画も、フライト中にたくさん観ることが可能です。
公開されている「スター・ウォーズ」シリーズをすべてとりそろえていたフライトもあって、私はメキシコまで26時間(片道約13時間)以上の往復フライトで、あらためて時系列順に「スター・ウォーズ」のエピソード1から8までを観ましたね。いやあ、ものすごくぜいたくな「スター・ウォーズ」に浸る時間を過ごして、幸せでした。MCU(Marvel Cinematic Universe、マーベル映画の一部)とよばれる「アイアンマン」から始まる一連の二十数作品も大好きで、世界的に人気のあるシリーズですから、どのフライトに乗っても、かならずこのシリーズのいくつかの映画は、放映リストにのっているので、いつも楽しみにしています。
まあ、「スターウォーズ」とかMCUとか、これは私の好みにすぎませんが、要するに自分の好きな映画や、お金を払うにはちょっと……と考える映画をフライト中に観る楽しみもある、ということですね。いまはもちろんネット経由の映画やドラマをあらかじめダウンロードして、機内で観ている方も少なくありません。フライトは「映画やドラマをみる時間」として、楽しむこともできるでしょう。
自動車や列車では車酔いをするので本を読めない人でも、割と安定している時間が長い長距離フライトでは、本を読むことができる人も多いようです。 私は仕事柄、たくさん本に囲まれていることが大好きで、時間があれば本を読みたい、と思うほうですが、そうはいっても旅行先に何冊も本を持って行くと荷物は増えるばかりですしそもそも重いですから、電子書籍が導入されることには興味津々でした。
電子書籍のさきがけとして登場したKindleは日本語版がでてすぐに購入し、いまは紙の本も買いますが、電子書籍もたくさん買います。機内では、軽いし、周りが暗くても読みやすいKindleでの読書は本当に便利です。スマホやパソコンでも電子書籍を読むことができるようになって、海外での日本語読書も簡単になりました。フライト中の時間も楽しく過ごせるし、現地に行っても日本語の本が簡単に読める、良い時代になりました。
最後にもうひとつ。機内で快適に過ごすために、水分を多めに取りましょう。機内はとても乾燥していますから、しょっちゅう水を飲むといいですね。お水はキャビンアテンダントの方に言えばいつでももらえますから、ふだんより多めに、水を飲むようにしてください。
注*1 高岡英夫『脳と体の疲れをとって健康になる 決定版 ゆる体操』(PHP研究所、2015年)など。
三砂ちづる (みさご・ちづる) 1958年山口県生まれ。兵庫県西宮育ち。津田塾大学国際関係学科教授、作家。京都薬科大学卒業、ロンドン大学Ph.D.(疫学)。著書に『オニババ化する女たち』、『昔の女性はできていた』、『月の小屋』、『女が女になること』、『女たちが、なにか、おかしい』、『死にゆく人のかたわらで』、『五感を育てるおむつなし育児』、『少女のための性の話』、訳書にフレイレ『被抑圧者の教育学』、共著に『家で生まれて家で死ぬ』他多数。