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6.252015
「毎月生まれ変わるということ」少女のための性の話
生理、どうですか。順調ですか。つらくないですか。なんでこんなに面倒くさいことが毎月あるのかなあ、って思っていませんか。きっと思っていますよね。
毎月毎月、今日だっけ、明日だっけ、と考えるのは心配なものだし、毎月、いろんな行事があるたびに、生理のことが気になる。修学旅行、校外学習、体育祭に文化祭、部活の試合にマラソン大会。やれやれ、今日だけはあたってほしくなかった、なんていう日に生理がきたりしますよね。「面倒くさいもの」、「いやなもの」、「なければないほうがいいもの」、そんなふうに思っているかもしれない。
初潮がきたとき、びっくりしましたよね。
こんなものがある、というのは小学校の保健の授業とか、おかあさんとかにきかされてはいたけれど、実際にどういうものがやってくるのか、想像もつかなかったのにちがいない。ここから血液が出るなんてなんとおそろしいこと、と思っていたかもしれない。最初のときにどっとたくさんでちゃって、すごく服を汚してはずかしいことになったらどうしたらいいの、と思っていたかもしれない。
それでもきっと実は、始まってみれば、「たいしたことなかった」のではないですか? 最初、ちょっと下着に色がつく程度の月経血で気がついて、おかあさんに言ったり、保健の先生に言ったり、おねえちゃんに言ったりして、生理用ナプキンをもらって、ことなきを得た、という感じではないでしょうか。
大人の女になるあなたのからだにおこってくること、これからほんとうにいろいろあるのだけれど、たいがいはそんなふうに「すごく心配していたけれど、まあなんとかなった」というふうにすぎていくから、これからも、まずは心配しないでください。
この文章を読んでくれている「まだ初潮がない」あなたも、心配いらないですよ。初潮はそんなにドラマティックに、どばっと、始まったりしない。そっと静かに始まるものですから、なにも気にやむことはないのです。
胸がなんとなくちょっと痛い感じがして、すこしふくらみ始めて、おしもにうっすら毛が生えてきはじめたら、初潮がもうすぐくる、というしるしのことが多い。そんなふうになってきたら、自分で気づきやすいように、ちょっと薄い色のショーツをつけるようにしたほうがいいかもしれないですね。あざやかな血の色、というより、むしろちょっと褐色っぽいしるしがついていたら、生理の始まりです。手元にあるティッシュなどをちょっとあてて、あるいはなにもあてなくても、そんなに急に出たりしないので、家族や保健室の先生に相談しにいけば、きっとやさしくしてもらえますよ。
からだも、こころもリセットできる
初潮がきたとき、お祝いをしてもらいましたか。
カナダに元々住んでいた原住民であるインディアンの女性たちは、初潮をむかえた女の子たちには盛大にお祝いをしていたそうです。「これであなたも毎月生まれ変われるようになった」、と。
女の子が初潮をみるということは、毎月毎月、排卵して、いつかその卵子が愛をかわした男の人の精子とむすびついて受精卵となり、子宮の内壁に着床する、その「受精卵」のベッドを用意することができている、ということ。
そしてたいがい、まだ「受精卵」はやってこないから、その用意した「受精卵のベッド」は、はがれおちて月経血として外に出ていく、ということ。つまり、あなたの子宮の内壁は毎月ふっくらと受精卵のベッドを用意しては、使わなければ、さっさとかたづける、そして、また用意する、ということをやっているわけです。
子宮ってとつぜん言われても……。目に見えないところにある、内臓のひとつなんだから、よくわかりませんよね。
子宮って一体どこにあると思いますか。
思わず、下腹に手をやってみるかもしれない。その辺にありそうですよね。でもじつは、あなたが手を当てているところより、子宮はもっと下の方にあるのです。
自分の手をそのまま股の前の部分にもってくると、そこに硬い骨がありますよね。それを、その名も「恥骨(ちこつ)」、というのですが、そのうしろくらい。結構下の方ですね。そのあたりにあるらしいです。ときおりそっと手をあててみてください。冷蔵庫にある卵よりちょっと小さいくらいの、かわいらしい子宮はあなたのからだのなかでいつか受精卵を迎える日を夢見て、せっせとはたらいているのです。
カナディアン・インディアンのひとたちは、ムーン・ロッジとよばれる「女だけで集まる小屋」をもっていたそうです。ムーン・ロッジは日本語に訳すと「月の小屋」でしょうか。初潮を迎えた女の子は、そこで先輩の女性たちから盛大に祝われていたらしい。
「毎月生まれ変わる」は、先ほど書いたように子宮の内壁が毎月はがれ落ちて新しくなる、という実際の意味もありますけれど、もっと、象徴的なもの、だと思いますよ。象徴的ってちょっとむずかしいことばですけれど、要するに、「何が生まれ変わるのか、わたしたちはよく知らないし、うまく説明できないけれど、生理が毎月来るようになった、ということは、あなたのからだもこころも大人の女になってきた、ということだから、からだもこころも毎月よい状態にリセットできる」というようなことが、その言葉には、こめられている、ということです。
毎月、リセット。
文字どおり、生理が毎月きて、その生理の状態から、あなたは自分のそのひと月のようすを知ることができます。
睡眠不足だったり、すごく疲れていたり、食生活がめちゃくちゃだったり、ひどく体が冷えたり、とってもつらいことがあった月は、生理がつらかったりするのです。上手に流れに乗れて気分よく過ごせた月の生理は、わりとスムーズだったりする。まあ、いろいろありますよね、いい月も悪い月もある。人生ってそういうもの。
でも、このカナディアン・インディアンの人たちのおしえでは、そういうものでも、ああいうものでも、生理が来たら全部ながせます、違う人生を始められます、っていうことなんですね。それはすばらしいことではないでしょうか。
わたしたちは生まれてからいろいろなこだわりを身につけて育っていく。どこかで、どんなこだわりも、さらさらと流して、いま、このときに集中できるようになることが、あなたの生きていく日々をふんわり豊かにします。毎月の生理は、それを助けてくれるというのです。
生理のことを、そんなふうに思ってあげてくださいね。
いろんなことがあっても
この生理、は、何か特別なことがないかぎり、あなたがだいたい50歳前後になるくらいまで、妊娠している時期、赤ちゃんが産まれておっぱいをあげている時期をのぞいて、ずっと毎月続くのです。
毎月、毎月、生理がくるたびに、いろいろなことがあったけど、わたしもまた、ここで生まれ変わろう、いいことも悪いこともあったけど、ここで新しい自分になれるのだ、と思ってください。
女のからだは何でも流していける。よきことも、そうでないことも、さらさらと流していける。それを毎月繰り返していると、あるとき生理が終わってしまったとき(それを閉経、っていうのですけれど)あなたはすっかり成熟していて、優しい笑みとともにどんなことでも受容できるハラのすわった大人の女性になっていて、毎月の生理がなくても、何でも流していけるすてきな人になっていることでしょう。
あなたの今月の生理が、あなたをまた生まれ変わらせてくれますように。若いあなたの過酷な日々に、心を添わせて祈ります。
三砂ちづる (みさご・ちづる) 1958年山口県生まれ。兵庫県西宮育ち。津田塾大学国際関係学科教授、作家。京都薬科大学卒業、ロンドン大学Ph.D.(疫学)。著書に『オニババ化する女たち』、『昔の女性はできていた』、『月の小屋』、『女が女になること』、『女たちが、なにか、おかしい』、『死にゆく人のかたわらで』、『五感を育てるおむつなし育児』、『少女のための性の話』、訳書にフレイレ『被抑圧者の教育学』、共著に『家で生まれて家で死ぬ』他多数。
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