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3.292017
「セックスを通じてうつる病気」少女のための性の話
「性感染症」ってなに?
「性感染症」という言葉、聞いたことがありますか。
なに、それ? と思うかもしれません。
性感染症。英語でSTDs、Sexual Transmitted DiseasesとかSTIs, Sexual Transmitted Infectionsとか言います。
英語習ってない人、嫌いな人、この辺の英語は忘れても構いません。とにかくですね、「セックスすることによってうつる病気」のことです。
セックスは誰とでもしてもいいのか、とか、子どもはどうやったらできるのか、とか、この連載ではすでにいろいろ書いてきました。
あたたかなからだを重ね合い、愛を交わし合うセックスは大人の人生に起こる本当に素敵なこと。楽しみにしていてください。
楽しいことなので、ちょっと怖い情報を提供するのは若干ためらいますが、やっぱり「セックスを通じてうつる病気」のことはお知らせしておいたほうがいいでしょう。
あなたも学校でエイズの話など、聞いているかもしれないですね。コンドームを使いなさい、と教えられているかと思います。
セックスを通じてうつる病気は、その昔「性病」と呼ばれ、それはそれは恐れられていたものです。
からだのあちこちに腫瘍ができて形が崩れていったり、脳を患ってなくなったりしてしまう梅毒という病気や、おちんちんから膿が出る淋病という病気は、1940年代あたりまで、つまりはあなたのひいおじいちゃんとかひいおばあちゃんの時代くらいまではとても怖い病気と思われていました。
ところが、抗生物質という、細菌を抑えるよい薬がたくさん開発されるようになり、梅毒も淋病も治る病気になりましたから、1960年代あたりには誰も怖がる病気ではなくなってきました。
もちろん、これらの病気はなくなったわけじゃなくて、今もあるのですけれど、病気になっても治るから、怖がられなくなった、ということです。
フリーセックスや同棲のはじまり
だから1960年代から70年代、そして80年代の初めくらいまで、つまりはだいたいあなたのおじいちゃんおばあちゃんが若者だった頃には、「怖がられるような、セックスでうつる病気が薬で治る時代」になっていた、と言えます。
考えようによっては、人類にとって、とっても楽しい数十年だった、と言えるかもしれない。
いろいろな人と愛をかわしてみたい、複数の人とセックスを体験してみたい、というのは、結構根源的な人間の欲望とも言えますが、「怖い性病」がある頃は、「知らない人とセックスしたら病気がうつるかもしれない」わけですから、そんなに思い切った行動に出ない人も多かったと思われます。
ところが、先ほど紹介したようなよい薬ができて、性病の代表と言われていた梅毒と淋病が治るようになったら、怖いものがありませんから、人間の性行動は世界的に、結構オープンになりました。
いろいろな人とセックスをするフリーセックスなどという言葉が出てきたのもこの頃でしたし、日本で、「同棲」とか結婚する前にセックスする、みたいなことが珍しくなくなってきたのもこの頃でした。
最近でも、若い男女が結婚する前に一緒に住む、ということをよく聞くようになりましたし、親もそれを別に構わないと思っているようです。
こんな感じになってきたのは、1970年代以降なんですね。セックスのことに限らず、「団塊の世代」と呼ばれている人たちは、それまでの人たちと比べると、ずいぶん自由な若者時代を過ごしてきた人たちと言えます。性行動が変化した時期とも言えるでしょう。
エイズってなに?
ところが性病が全部治る病気になった、というような“楽しい”時代は、そんなに長く続きませんでした。
1980年代も半ばを過ぎると、あなたも知っているエイズが性感染症としてよく知られるようになってきます。
エイズという病気を起こすHIVウィルスは、精液、膣粘膜液、血液のどれか一つずつ、あるいは二つ、あるいは三つの濃厚なコンタクトによって感染します。
これ以外のコンタクトでは感染するに至りませんから、例えば、手を握ったり、キスしたり、食器を一緒に使ったりしても感染しません。
精液と膣粘膜液が濃厚にコンタクトする行為や、注射針の使い回し、などでHIVウィルスは感染します。だから、セックスを通じて感染する可能性があるのです。
エイズという病気は、体をまもり体を治すその人自身の免疫システム自体を壊してしまうので、一旦発症したら、命に関わります。
しかし、HIVウィルスに感染したら、すぐにエイズを発症するのか、というとそういうことではなくて、病気の症状が出ない「潜伏期」というのが六カ月以上、何十年もあったりします。発症すると死に至りますが、ウィルスに感染していても、何も病気の症状がない時期も長い、ということです。
1960年代から数十年、怖い性病がなかった時代も終わりを告げ、80年台後半から、世界はまた、「死に至るような性感染症」を怖い、と思う時代を迎えることになりました。
この時期、エイズを発症して、クイーンのフレディ・マーキュリー(ロックが好きな大人に聞いてみましょう)、ジョルジュ・ドン(バレエが好きな大人に聞いてみましょう)など多くの著名人を含む方々が亡くなりました。
あなたに気をつけてほしいこと
そこから約15年経った1996年のこと、今、世の中で「エイズ治療薬」と呼ばれている薬が発表されました。
新薬、というわけではなく、今まであった薬をいくつか組み合わせて「HIVウィルスに感染しているけれどもエイズの発症を抑えられる」ような薬が発表されたのです。
それから約20年、世界中でこの薬が改良されて、今やエイズも、適切に治療を受けて薬を飲めば、ウィルスに感染していても発病は避けられる病気となってきました。
でもこれは、「自分がウィルスに感染している」ということを知らないと、治療を受けられません。
感染しても全く症状がない期間が長い、と申し上げました。症状がなくても「自分はウィルスに感染しているかもしれない」と思って検査しないと、治療を始められないのです。
ちなみにこの検査は、日本中の保健所で、匿名で検査をしてくれることになっているので、「必要だと思う時には保健所に行く」、ということを覚えておいてください。
こういう話になると、理屈っぽいですね。
それでも、セックスというすばらしい行為と、この性感染症の話は、どうしても裏表になってしまいます。
命に関わるような病気ではなくても、クラミジアとか、トリコモナスとか、おりものに色がついたり、性器が痒かったりして気がつくものもあります。総じて、治療法は今、あるのですが、なかなかしんどいものです。
どうすれば、エイズをはじめとする現代の性感染症を予防できるのか。
このことについて世界中の公衆衛生関係者が知恵を絞ってきたこの数十年でした。その結果、若い人たちに言えるのは、「性感染症にかかりたくなければ、セックスするときコンドームを使いましょう」、ということに尽きます。
「なるべくセックスしないようにしましょう」(英語でAbstinenceといいます)とか、「一人だけのパートナーとセックスしましょう」(英語でBe faithfulと言います)とかいうキャンペーンが「保守的」と言われるグループから提案されて、コンドーム(Condom)使用と合わせてABCキャンペーンなどと呼ばれたこともありました。その評判は、概して悪かったですね。abstinenceとかfaithfulであることは、なかなかむずかしいのが人間です。一旦手に入れた自由を手放すのも、またむずかしいことだったりします。
聡明なあなたには、こういうこともある、ということをぜひ知っておいてほしいのです。
そして、学びながら、女性のからだの「愛する力」、「愛される力」について、大いに楽しみにしていていただきたい、と思います。
三砂ちづる (みさご・ちづる) 1958年山口県生まれ。兵庫県西宮育ち。津田塾大学国際関係学科教授、作家。京都薬科大学卒業、ロンドン大学Ph.D.(疫学)。著書に『オニババ化する女たち』、『昔の女性はできていた』、『月の小屋』、『女が女になること』、『女たちが、なにか、おかしい』、『死にゆく人のかたわらで』、『五感を育てるおむつなし育児』、『少女のための性の話』、訳書にフレイレ『被抑圧者の教育学』、共著に『家で生まれて家で死ぬ』他多数。
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