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「第23回 ダニーデンと環境問題」

なつかしい未来の国からバナー_青空と一本の木

鳥の楽園

 私の仲良いニュージーランドの友達は、一緒に歩いていてプラスチックのごみを拾う人たちが多い。そして、私の友達に限らず、ニュージーランドには生活の中で、環境問題について考え、行動している人が多いように感じる。

 二〇一九年に、ニュージーランドは、スーパーなどで使われる使い捨てのビニール袋を禁止した。それまでも、スーパーに行ったらビニール袋は有料だった時期があったので、ニュージーランドに住む人たちは、基本的にマイバッグを持ち歩くのに慣れていたと思う。それでも、小さなアジア食品店みたいなお店からも、一気にビニール袋が消えた時は、驚きとともに、清々しい気持ちになった。この時に私が研修していた団体の先輩の女性は、「ゴミ袋にするビニール袋がなくなるのは困るなぁって思ったけど、新聞を折ってゴミ箱にすればいいって気づいたわ!」と言って、大きめの新聞紙で折ったゴミ箱を誇らしげに見せてくれた。

 研究によると、プラスチックが海の中でしばらく漂っていると、その周りに小さな微生物たちが集まり、その微生物たちの摩擦によって発生する匂いが、海鳥たちの餌の匂いと同じ匂いのために、海鳥たちはプラスチックを餌と間違えて食べてしまうそうだ*1。

 アオテアロア(ニュージーランドのマオリ語の名称)は、もともと動物といったら鳥しかいない、鳥の楽園だったそう。マオリの人たちがやってきて土地が少し開拓され、その後、主にイギリスからやってきた人たちと一緒に、四つ足の動物たちもやってきた。マオリの人たちだけだったころは、アオテアロアのどこにいても、お互いの話し声が聞こえないくらい、鳥たちのさえずりが響いていたそうだ。植民地支配が進む中、「開拓」という名の下で環境が破壊され、鳥たちの数はずいぶん減ってしまった。だけど、今も、世界で見られるアホウドリ二二種類のうち、一四種類はアオテアロアで見つかるし、たくさんの珍しい鳥の住処であることは変わらない。*2

森の中

鳥の声が今も聞こえる森の中で

アルバトロスに会える場所

 私の住むダニーデンは、アホウドリの一種のノーザン・ロイヤル・アルバトロス(以下、アルバトロスと表記)の繁殖コロニーもある。そこは、ダニーデンの中心部から車で四〇分くらいのところにあり、人間が歩いて行ける、唯一の繁殖コロニーだ。

 アルバトロスは、ダニーデンと南米を行ったり来たりする渡鳥で、一生の八五%は海の上で過ごす。長寿で知られ、四〇年以上生きるとされている。繁殖するために二年に一回、ダニーデンに帰ってくる。一度カップルになったらパートナーが死んでしまうまで、一生添い遂げる一途な海鳥だ。海の上で生活している間はそれぞれ別に暮らしているけれど、同じ時期に同じ場所に戻ってきては、一緒に子どもを育てるそうだ。

 私が大学二年生の頃に同居人だったジャニスは、ロイヤル・アルバトロス・センターというところで、このコロニーのツアーガイドをしている。人間の開拓によって、一時はアルバトロスが帰ってこなくなってしまった時期もあるそうだが、今は、このコロニーは環境保護地区として守られている。ツアー代は、ここの環境保護のために使われている。いつでもアルバトロスが観られるとは限らないけれど、九月ごろに私が訪れた時は、数羽のアルバトロスが三メートルにもなる翼を広げて悠々と空を舞っている姿を見ることができた。

アルバトロスセンターの展望台から海を眺めた風景

アルバトロスセンターの展望台から

 ジャニスの話によると、アルバトロスコロニーで子育てをしているカップルの中に、レズビアンのカップルもいるそうだ。それぞれ、別のオスと子作りをしたあと、お互いのところに戻ってきて、隣同士の巣で卵を温めた後、協力し合いながら一羽ずつ雛を育てているそうだ。鳥の世界で、同性カップルは結構よくあることだと聞いていたけれど、近くで実際にカップルがいると聞いた時は、ワクワクした。

 そのカップルが見られるわけではないかもしれないけれど、このリンクから、アルバトロスの子育ての様子が、ライブカメラを通していつも見ることができる。https://www.youtube.com/watch?v=An5243gZf4A&feature=emb_title

スクーターに乗る宇宙さん

アルバトロスセンターの展望台には歩いていかなければいけないが、歩けない人のために、スクーターを貸してくれる

ビーチ・クリーンアップ

 でも、悲しいことに、先ほど書いたように、アルバトロスもプラスチックを餌と勘違いしてしまう。カップルが交互に海へ餌を見つけにいっては、雛鳥に餌付けをするのだが、その餌の中に、プラスチックが混ざっているのが発見された。プラスチックは消化もされず体外へも排出されにくいため、栄養はとれないのにずっとおなかがいっぱいの状態が続いて、栄養失調で死んでしまう雛鳥が確認された。*3

 アルバトロスは今、世界に一〇〇羽もいないと言われていて、絶滅危惧種だ。繁殖スピードも二年に一度と、とてもゆっくりである。それなのに、雛鳥はプラスチックのために、成長して広い海へ羽ばたいてくことができず、命を奪われてしまう。

 この状況を広く知らせるため、アルバトロスセンターでは、観光客へのツアーだけではなく、地域の学校で野生動物の生態や、環境問題についての課外授業を行っている。さらに、地域の人たちと一緒にビーチでプラスチックを拾う「ビーチ・クリーンアップ」も定期的に企画している。私は大勢でのビーチ・クリーンアップにはまだ参加したことがないのだけれど、ジャニスと一緒に何度かプラスチック拾いをしにいったことがある。一見何も落ちてないようなビーチでも、よく目を凝らすと、手にいっぱいのプラスチックが見つかる。

ビーチで10分くらい歩いて拾ったプラスチック

ビーチで10分くらい歩いて拾ったプラスチック

 プラスチックは元々、自然界にある石油に添加剤を加えてできるものだが、完全に自然界に戻るまで分解する技術はいまだに発明されていない。「プラスチックのリサイクル」と言っても、ここニュージーランドでも、その多くが中国へ輸出されていたのが数年前までの現実だった。でも、二〇一九年に、中国がプラスチックごみを受け取らないと宣言したこともあって、ビニール袋を禁止する法令が定まった。だけど、ビニール袋以外のプラスチックももちろんたくさん存在する。ニュージーランドは、未だにきちんとしたプラスチックのリサイクリングをする施設を持っていない。

計り売りのお店

 海の中にある海洋プラスチックの量は、二〇五〇年までに、海中に生息する魚の数を超えてしまうという。*4 今の私たちの一時の便利さのために、これから先の世代の人たちは、私たちのゴミの処理をしていかなければいけないというのは、本当に不公平な話だ。ただ、今は医療用の製品などで、プラスチックが必要なものもある。だから、すべてを今すぐやめられないとしても、できる限りのプラスチックを減らしていくことが、大切なのだと思う。

 ダニーデンには、計り売りで食品を買えるお店が何か所かある。そのうちの一つは、「ティスト・ネイチャー」というオーガニックショップで、いろんな雑穀やスパイスなどを取りそろえている。プラスチック容器に入っていることが多いお米や油など、毎日の料理に必須の調味料も、自分の容器を持って行って買えることが、とてもありがたい。

 最近では、プラスチックを使わない製品がたくさん増えている。歯ブラシも、竹でできたものが売られている。そう言った試みは大切なことだと思うのと同時に、新しい商品を生産する段階で、結局プラスチックが使われていることも、よくある。「大量消費」を前提とした「大量生産」のあり方が変わらない限り、「環境に優しい」と売られている商品も、どこかで環境破壊に加担し続けている可能性がある。

 プラスチックごみの問題に限らず、気候変動による自然災害の深刻さは年々深まるばかりだけれど、その一番の原因である大企業による環境破壊は未だに止まることがない。だけど、この数年で、それによっていち早く犠牲になる「発展途上国」と呼ばれる国に住む人たちや、これからの世界を築いていく若者たちの声が、前よりは社会の中で聞こえるようになってきた。

ダニーデンのスクールストライキ

 二〇一八年にスウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんが始めた金曜日のスクールストライキは、全世界に広まり、ダニーデンでも、二〇一九年には三回ほど大きなデモが行われた。

 ダニーデンは、ニュージーランドで五番目に大きな都市で、人口は約一二万人ほど。そんなダニーデンでも、その度に、高校生を中心に一〇〇〇人くらいの人々が集まった。私も、一度参加することができて、「クライメイト・ジャスティス・ナウ(環境正義を今)」と繰り返し響く声から、今も着々と起きている気候変動への危機感をひしひしと感じた。

ダニーデンでのスクールストライキの様子

ダニーデンでのスクールストライキの様子

 今はまだ、自然を楽しむことができるけれど、このまま環境破壊を続ければ、私の子どもや孫の時代には、私たちが親しんできたような自然は残っていないかもしれない。さらには、地球に住む全ての生き物たちの生存すら危ういのだ。スピーチで話していた一人の子が「学校を休んでデモに行くなんて意味がないと、周りの大人から言われるけれど、自分の未来のことにちゃんと向き合わないで、勉強だけしているうちに環境が壊れてしまったら、それこそ意味がないんだ」と訴えていた。

 そんな活動の後で、ニュージーランドは、二〇一九年の一一月に「気候変動対策法案(二酸化炭素ゼロ法案)」を施行した。この法案によって、二〇三五年までに、全ての電力は自然エネルギーでまかなうこと、そして二〇五〇年までに、二酸化炭素の排出量をゼロにすると決めた。牛や羊など畜産動物からの二酸化炭素の排出量においては、今の時点では、四分の一にするという。この法案が成立した後、アーダーン首相は、「他国の気候変動の対策のペースの遅さに失望感を感じると同時に、ニュージーランドはこの問題に向き合う国際リーダーになる。未来の世代の人たちに、ニュージーランドは正しい選択をしたと覚えていてほしい」と語った。*5

 気候変動に歯止めをかけるために残された時間は、あと四年とも、八年とも言われている。四年から八年なんて、あっという間に過ぎていくだろう。忙しい日々の中で余裕がないと、環境のことを考えられない時だってある。さらに、周りに環境問題について話せる人がいないと、何かしたい、という思いはあってもどうしたらいいかわからなくなってしまうこともある。

 だけど、ジャニスや、デモに参加してる友達などと話すと、力をもらう。インターネットから、この問題を真剣に考えている人たちが世界中にいることもわかる。私はこうした大きな問題と向き合う時、一人にならないことが大切だと思っている。一人でできることは本当に少ないけれど、つながっていくことで、できることは広がっていく。

 これは一人の問題ではないのだから、自分の力の小ささを悩まずに、これから先の未来へと命をつないでいけるように、人とつながっていきたい。

*1 Savoca et al. (2016). Marine plastic debris emits a keystone infochemical for olfactory foraging seabirds.  https://advances.sciencemag.org/content/2/11/e1600395

*2 & 3 ロイアルアロバトロスセンターの公式ウェブサイト https://albatross.org.nz/royal-albatross/

*4 More plastic than fish in the sea by 2050, says Ellen MacArthur (2016) https://www.theguardian.com/business/2016/jan/19/more-plastic-than-fish-in-the-sea-by-2050-warns-ellen-macarthur

*5 News.com.au. (2019). Jacinda Ardern gives inspiring speech as New Zealand passes historic climate change. https://www.news.com.au/technology/environment/climate-change/jacinda-ardern-gives-inspiring-speech-as-new-zealand-passes-historic-climate-change-law/news-story/84fa59ac85f9d509532cdadb6308a990

安積宇宙プロフィール画像_ニット帽
安積宇宙(あさか・うみ)
1996年東京都生まれ。母の体の特徴を受け継ぎ、生まれつき骨が弱く車椅子を使って生活している。 小学校2年生から学校に行かないことを決め、父が運営していたフリースクールに通う。ニュージーランドのオタゴ大学に初めての車椅子に乗った正規の留学生として入学し、社会福祉を専攻中。大学三年次に学生会の中で留学生の代表という役員を務める。同年、ニュージーランドの若者省から「多様性と共生賞」を受賞。共著に『多様性のレッスン 車いすに乗るピアカウンセラー母娘が答える47のQ&A』(ミツイパブリッシング)。
Twitter: @asakaocean
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