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2.62022
「第25回 ワイタンギデー2022」
想像してほしい。
ある時から近所に、数人の今まで見たことないような出立ちの人たちが引っ越してきた。その人たちの中には、新しい宗教を勧誘してくる人や、今までなかったようなビジネスを始める人、そして行いが荒れた人たちもいた。
そんな中、その人たちのリーダーみたいな人が、これから、お互いが対等に共存していくために、お互いに何を保証するかという契約を結びましょう、と言ってきて、悩んだけれど、そうした方が、これから先が安定するならば、と思って、その契約にサインをしたら、その後、その契約は無視されて、突然、住んでいたところを奪われ、強制的に違う場所へ引っ越すことになってしまった。その上、自分たちが今まで話していた言葉を話してはいけないとされ、引っ越してきた人たちの言葉を話すことを強制された。
長い時間が経ち、強制的に家と土地と文化と言葉を奪われたことは間違いだったと認識され始めたけれど、いまだに大体のルールが後から引っ越してきた人たちのもので成り立っている。それからたくさんの人たちが引っ越してきて、私たちの生活が奪われた場所の上で、新たな生活を作り出している。
ワイタンギ条約は、ワイタンギという北島の上の方の大地で182年前の1840年2月6日に結ばれた。この日、ニュージーランドは祝日だ。昨日会った日本人の友達に「ワイタンギデーって何?」って聞かれて、どうやって説明したらいいかなと考えながら、この文章を書いた。上の文章の中の「契約」は「ワイタンギ条約」をさしている。
ニュージーランドで暮らすということは、マオリたちの奪われた土地・文化・生活の上で、自分の生活があるということ。マオリたちの生活と、文化と、そして命の犠牲の上で成り立っているという酷さを受け止めて、それを変えるためには何ができるかを考えること。
約束(ワイタンギ条約)を破って行われたダメージを取り消すことはできないけれど、ここから、約束に戻って、約束を守って暮らしていくためには、どうすればいいかと、考え、語り合い、そして行動していくことが、今ニュージーランドに住む条約の人々(マオリ以外のワイタンギ条約以降ニュージーランドにきた移民たちのこと)の責任なのだ。
安積宇宙(あさか・うみ)
1996年東京都生まれ。母の体の特徴を受け継ぎ、生まれつき骨が弱く車椅子を使って生活している。 小学校2年生から学校に行かないことを決め、父が運営していたフリースクールに通う。ニュージーランドのオタゴ大学に初めての車椅子に乗った正規の留学生として入学し、社会福祉を専攻中。大学三年次に学生会の中で留学生の代表という役員を務める。同年、ニュージーランドの若者省から「多様性と共生賞」を受賞。共著に『多様性のレッスン 車いすに乗るピアカウンセラー母娘が答える47のQ&A』(ミツイパブリッシング)。
Twitter: @asakaocean
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