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「第19回 地元から始まる未来のこと」

なつかしい未来の国からバナー_青空と一本の木

毎週土曜日の楽しみ

 ここ数年の私の週課は、毎週欠かさずファーマーズマーケットに行くこと。ニュージーランドは、大抵どんな街も、土曜日か日曜日のどちらかに、地元の農家さんや、お惣菜やお菓子屋さん、そして、場所によっては手作りアクセサリー屋さんによるマーケットがある。

 私の住むダニーデンは、土曜日の朝八時から一二時半の間にファーマーズマーケットが開催される。場所は、建設されてから一一四年にもなる、趣のある煉瓦造りの駅の隣の駐車場スペースだ。
 出店されるお店は、毎週大体決まっていて、八百屋さんが六件ほど、パン屋さんが二件、コーヒー屋さんが二件、お肉屋さんが二件、お魚屋さんが一件、卵屋さんが一件、お花屋さんが一件、お菓子屋さんが二件、それに加えて、クレープや、レバノンのお惣菜、釜焼きのピザ屋さんとお豆腐屋さんまである。八百屋さんは減農薬かオーガニックの農家さんだ。お菓子屋さんやお惣菜屋さんも、ビーガンやグルテンフリーなど、どんな人も楽しめるように工夫してくれている。マーケットの右と左二箇所には、街のアーティストが思い思いの音楽を演奏して、マーケットを活気づけてくれている。

マーケットの入り口にある一番大きな八百屋さん

マーケットの入り口にある一番大きな八百屋さん、果物も置いている

大学の友達、ジョイがマーケットで演奏をしている様子

大学の友達、ジョイがマーケットで演奏をしていた

 私の毎週の行動パターンは決まっている。ニュージーランドはすっかりカード文化で、普段は現金を持ち歩くことの方が珍しいのだけれど、マーケットでは多くのお店が現金しか受け付けていない。だから、マーケットに入ったらカードを使える機械のある八百屋さんで、野菜を買って、カードから現金に換金してもらう。それからお豆腐屋さんに行って、その前の週に渡しておいた入れ物に入ったお豆腐を受け取り、次の週の分のタッパーを渡す。

 マーケットに通い始めた頃は、あまり長持ちしないプラスチック容器に入った豆腐を毎回買っては、このプラスチックがどうにかならないものかと思っていた。そして、マイバッグを持ち歩くように、入れ物を持っていけばいいのだと気づいて、豆腐屋さんにそうしてもいいかと聞いたら、前週に入れ物を渡して前払いしてくれればいいと言ってくれた。
 私がそれを始めて少し経った頃、他の人も自分の入れ物を持ってくるようになったのを見かけた。誰かが始めたら、自分もできるんだと気づいて、試してみる人がいてくれたことが嬉しかった。
 ある金曜日の夜、メッセンジャーに知らない人からメッセージが来ていたから誰かと思ったら、豆腐屋さんの息子さんだった。「明日は、マーケットに行くことができないから、君の豆腐を持っていけない。ごめんね」と書いてあった。ちゃんと自己紹介をした覚えはなかったけれど、小さな街に住んでいるアジア人なんて限られているので、私のことをフェイスブックで見つけてくれたようだった。それ以来、豆腐屋さんの一家とは、友達みたいなような気分だ。

毎週お馴染み豆腐屋のお母さん

毎週お馴染み豆腐屋のお母さん

介助者? 友達?

 お豆腐屋さんの次は、他の八百屋さんを回って、その時々で、お惣菜を買ったり、いつも一緒に行かない友達と行く時は、贅沢をしてクレープを食べたりする。
 この週課が始まったのは、大学三年生の頃、友達と毎週行くようになってからだった。それまでも、マーケットには時々訪れていたけれど、毎週ではなかった。
 その友達、ベル(仮名)は大学一年の頃に寮で一緒だった。寮を出てからは、しばらく会っていなかったのだけど、ある日偶然に道で再会して、次のマーケットに行こうという話になった。
 初めて一緒にマーケットに行った時、彼女は私の首の動きに合わせて、車イスの方向を変えてくれた。人の間をぬって進まなければいけないほど混み合うマーケットでは、移動しながらどこのお店を見たいか、車イスを押してくれる人に声をかけるのは難しい。言葉にしなくても、私の首の動きで私が行きたい先を汲みとってくれる彼女の察知能力は新鮮で、嬉しく思った。
 この頃はちょうど留学生の代表をしていた時期で、毎週忙しかったので、週に一回必ず彼女とマーケットに行くことは、私の心の栄養源だった。

 車イスに乗っていると、話しかけてくる人は大抵、私か車イスを押してくれている友達か、どちらかとしか話さない。私を知らない人たちは、友達に話しかけることの方が多い。だけど、マーケットでは私のことを見知っている人が多いから、私としか話さない人もいる。
 果物屋のおじさんは、最初、ベルのことを私の「お世話係なのか」と聞いてきた。私も日本では介助の人と行動することもあるけれど、友達は「介助者」ではないから、そう捉えられるのは複雑な気分になる。
 障がいを持っている人も、対等な人間関係を築けるということを知らない人が多い。それは、障がいを持った人たちに関わったことがないからだと思う。それでも果物屋さんのおじさんは、毎週通ううちに、私たちが友達だということを、理解してくれたように思う。
 人参を買う八百屋さんでは、大根をおまけにくれたり、果物屋さんは、値段を安くおまけしてくれたりする。マーケットの入り口では、その日に販売されている材料を使ったおかずやおやつを試食できるところがあって、試食したもののレシピをもらうこともできる。
 ニュージーランドでは、スーパーのレジなどでも、「元気?」とか小さな会話を交わすことがある。マーケットでももっぱら、「今日は寒いね」などと、世間話をする。ダニーデンは寒くて天気が不安定なのが常なので、少しでも暖かくて天気がいいと、話題は天気の話で持ちきりだ。他愛のないことだけれど、そんな何気ない会話を繰り返せることにも、心が和む。

ファーマーズマーケットの値段は高い?

 ファーマーズマーケットで買い物をするのは高くない? と聞かれることがある。私はビーガンで、野菜と豆腐とお米だけの食生活なので、日々の食料はほぼ全てファーマーズマーケットで買ったものだ。マーケットでは、毎週二十〜三十ドル(千五百〜二千円ちょっと)くらい使うけれど、それで、地元の農家さんが作った食材を食べられるのはとてもお得だと思う。地元産の食料を食べることで、自分の生活圏にある微生物をいい具合に体に取り入れることができて、免疫力をあげられるのだと、同僚が話していた。
 地元の野菜を買って料理をすることは、スーパーマーケットで買ったインスタントに作れるもので食事を準備するよりも、時間がかかる。でも、インスタントに食べられるものの製造から消費までの工程を考えると、そこには、たくさんの人たちの労力と、資源が使われているのがわかってくる。
 一方、目の前の農家さんから野菜を買うことは、野菜を育てる労力はあるにしても、使われる資源の量は圧倒的に少ないだろう。インスタントにできるものは、「簡単」というイメージがあるけれど、環境へのダメージや労働者のダメージを考えると、全く「簡単」ではない。むしろ、「ゆっくり」「手間」をかけることの方が、大きな視点で見たら、ダメージが少なくて、ずっと「簡単」なことなのかもしれないとも思う。だからこそ、私はマーケットに毎週行ったり、きちんと料理をするという時間が好きだ。

 食べることは、生きることと直結している。でも現代の私たちの生活は、野菜や穀物など食べ物が生み出される過程から、遠く離れている気がする。
 ロックダウンの間、時間が止まってしまったかのように感じる日々の中で、食べ物を育てたりといった命に直結した営みをせずに、家の中だけで生きていけることに、すごく違和感を感じた。そして、他国に食糧生産の多くを頼っていることの危うさと、グローバリズムが内包する不均等さに思いを馳せた。
 コロンビア出身の友人と話した時に、彼女がこう言っていた。「地産地消がいいと言って、”先進国”と言われる国々の人たちが、他国の食料を買わなくなったとする。でも“先進国”によって強制的に大量生産型の農業へと転換させられてきた農家たちは、収益が減って、結局しわ寄せをうける。環境保護や倫理的な理由で地産地消を選択できる人たちは、それだけで特権的な立場にある。彼らが買わないことを選んだとしても、生産者の人たちの生活はよくはならないんだ」と。
 本当にそのとおりだと思う。だからファーマーズマーケットに行くのと同時に、世界中の農家さんのことも考えていきたい。それは、今のままのあり方でいいと諦めることではない。世界中に、大企業に巻き込まれずに農業を続けている人たちがいる。そのうちの一人で、インドの種を守る活動で有名なのは、ヴァンダナ・シヴァ博士だ。彼女はこう言っている。「みなさんが自分が食べるものを選ぶことは、民主主義を行使することそのもの。つまり、みなさんは、消費者という立場から、世界の、未来の形を作っているのです」(注)
 彼女たちの活動は、これからの未来を作るための、とても大切な指針だと思う。

注)「たねの支配を、許してはならない」―環境活動家ヴァンダナ・シヴァ博士」

安積宇宙プロフィール画像_ニット帽
安積宇宙(あさか・うみ)
1996年東京都生まれ。母の体の特徴を受け継ぎ、生まれつき骨が弱く車椅子を使って生活している。 小学校2年生から学校に行かないことを決め、父が運営していたフリースクールに通う。ニュージーランドのオタゴ大学に初めての車椅子に乗った正規の留学生として入学し、社会福祉を専攻中。大学三年次に学生会の中で留学生の代表という役員を務める。同年、ニュージーランドの若者省から「多様性と共生賞」を受賞。共著に『多様性のレッスン 車いすに乗るピアカウンセラー母娘が答える47のQ&A』(ミツイパブリッシング)。
Twitter: @asakaocean
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