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メディアによる薬物報道と薬物依存症者の実態との違い | 三井ヤスシ

「関わりたくない人たち」から「共感」へ

 ピエール瀧のコカイン使用が大きく報じられた。有名人の違法薬物の使用で、毎回「吊し上げ」とも言えるような一面的な報道が繰り返される。

 私は2013年に『福音ソフトボール 山梨ダルクの回復記』を出版した。本業はイラストレーターで、プロのライターでもない私が、なぜこのような本を書きたいと思ったのか。その理由は、振り返ってみれば、「メディアによる薬物報道と実際の薬物依存症者の実態との違い」である。

 私ももれなく「ダメ、ゼッタイ!」の薬物乱用防止教育を受けてきた。小さいころテレビでみた「覚せい剤やめますか? それとも人間やめますか?」のCMに衝撃を受けた一人である。それらを真に受けてきて、薬物依存症者を「犯罪者」「アブナイ人たち」と思っていたし、関わりたくない人たちと思っていた。

 私は思春期に心を壊し、いわゆる精神病院にお世話になった。その通院先で「山梨ダルク」のポスターを見たのが、ダルクとの出会いだった。 

 ダルク(DARC)は、薬物依存症からの回復施設だ。薬物依存の当事者たちが集まり、共に暮らしながら回復を行う場で、北海道から沖縄まで、全国各地にある。その名称はドラッグ(Drug=薬物)のD、アディクション(Addiction=病的依存)のA、リハビリテーションのR、センターのCを組み合わせた言葉である。

犯罪者と警察が交流試合?

 病院でポスターを見てから数年後。通っていたカトリック甲府教会で、私は偶然、山梨ダルクのスタッフと出会う。それから数カ月後、地元の新聞で山梨ダルクと山梨県警ソフトボールクラブが交流試合を行っていることを知り、試合にも足を運びはじめた。

 山梨ダルクのみなさんと言葉を交わす中で見えてきたのは、実際の彼らの姿と、メディアで報道されている姿がだいぶ違うこと。彼らは、たくさんの問題を抱えながらも回復に努めていて、むしろ礼儀正しく思いやりのある人びとだと感じた。そして話を聞くと、厳しい環境で子ども時代を過ごした人が多いのだ。

 もちろん、ダルクにつながっても再使用する人もいるし、警察のご厄介になる人もいる。一方、ダルクにつながって回復する人は3割にのぼると言われている。多くが再犯の経歴をもち、家族はおろか社会から切り捨てられた人びとのうち、3割が回復していくというのである。

野球グラウンド

処罰より支援

 『福音ソフトボール』は、山梨ダルクと山梨県警ソフトボールクラブとの交流試合を軸に、山梨ダルク代表の佐々木広さんや他のスタッフ、回復途上にある入所者さんの言葉や思いを綴らせていただいた。加えて、薬物依存症者を「アブナイ人たち」と思っていた私自身の変化もこの本には収めたつもりである。

 欧米では薬物問題は「処罰の対象」というより、「回復支援の対象」という見方が広く浸透していると聞く。その前提にあるのは、彼らを「薬物に依存しなければ生きていけないほど傷ついてきた人たち」とする認識だ。つまり、彼らを「助けが必要な人たち」ととらえるのである。

 とすると、依存症当事者の心の声に耳を傾けることが、まずは、必要なのではないだろうか。

依存症は生きづらさ問題

 近年、ダルクに対して反対運動が起きている地域もあるが、山梨ダルクは地域住民に受け入れられている。地域活動の担い手として期待を背負う存在にまでなっていて、「山梨モデル」として全国から注目を集めているのだ。

「支援者の数に比例して、回復者も増える」

 山梨ダルクのスタッフの言葉である。

 地域で受け入れられ、他者から必要とされることで、人は自分の存在意義に気づく。そして他者との信頼関係を築き直すことができる。孤立はむしろ、依存症に拍車をかける要因だ。

 薬物依存症も、「生きづらさ問題」から生まれる。心を壊し、その後遺症に苦しむ一人として、それに気づいたことがダルクの人びとへの共感となった。

 佐々木広さんをはじめとする、依存症当事者の心の声と奮闘ぶりを、本書を通じて届けられたらと願っている。

 

山梨ダルクWebサイト:http://yamanashi-darc.jp/

福音ソフトボール 山梨ダルクの回復記

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