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6.192020
安積遊歩「母から娘への手紙」
「宇宙のニュージーランド日記 / 第15回 多様性の難しさ」 を読んだ安積遊歩さんからの寄稿です。
「母から娘への手紙」
事務所までの道のりを一緒に何回か歩いたことのある私は、宇宙がいる間に、あるいは次の年にはエレベーターができるかもしれないと無邪気に信じていました。
こんなにも宇宙自身がもやもやしていた気持ちを抱えていたとは……。
それを見抜いていたのは私以上に私の妹でした。妹は宇宙が役員の時に日本から彼女にわざわざ会いに来てくれたのです。ケアマネをしている彼女は仕事がとても忙しいので、もうしばらくは来れないと言いながらも何故か日本に帰国してからすぐに次の年にも来る計画を立ててくれたのです。
あとで聞いたところによると、「やはり重い扉を一生懸命ひとりで開けていた宇宙が心配でもう一度会いに来たいと思った」というのでした。そして実際にきてくれた時には、宇宙が10年ぶりぐらいに骨折していました。
もちろん海外での骨折は初めてのこと。その時もちょうど私がいたのですが、私は介助者ではないシェアメイトたちの自分のペースを崩さない動きに苛立ち、それをなんとか「彼女たちは介助者ではないのだから」とわからせようとする宇宙にも腹を立てていました。そんな時に妹が来てくれて、生まれた時から私の1番の妹であり、介助者であり、家族であり、仲間であり、友人であり、すべての役割をこなし続けてくれた彼女に宇宙との間を仲裁してもらいました。
私は宇宙が留学生代表の仕事をしていた彼女と同じ歳には障害を持つ仲間と共に社会に立ち向かっていました。けれども宇宙は障害を持つ仲間がいないところで孤独に、差別と向き合わざるを得なかったのです。そして孤独がさらに厄介なのは自分が不充分だから悪いと、罪悪感と後ろめたさまで伴ってしまうのです。
多様性を伝えるために孤独の中で自分の存在を肯定し続けるという、私以上に困難な取り組みを罪悪感と後ろめたさまで抱え込みながら続けていた宇宙……。
言いたいことはいっぱいあるけれど、一番言いたいことは「本当に本当によくやったね」ということ。そして今も日本から遠く離れて、言葉も違う中でアジア人の若い女性として車椅子で生きているということ。その凄さは私が一番知っている……。
例えば、車椅子で歩くチャレンジは雨が降っても、バスに一台乗り遅れても色んな不安や心配、段取りやそれにどう応じるのかと思索し続けるということ。その上、その瞬間瞬間にありとあらゆる知性を巡らせるだけではなく、常に周りの人達のことを大切にし、環境問題も我がこととして考え行動しているあなたに心からの尊敬と信頼を送ります。