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「生きてるんですけど」安積遊歩さんの言葉はいつも、いのちの授業

 先月、NHKのハートネットTV「母から娘へ~いのちと尊厳のバトン~」に登場した安積遊歩さんは、自伝エッセー『自分がきらいなあなたへ』でも書いているが、現在は北海道の札幌市に住む。
 全国の障害をもつ仲間のもとへ飛んでいったり、大学や福祉団体で講義をしたり。重度の障害をもつ人をサポートする仕事(重度訪問介護)をめざす人への講座も担当している。
 先日、その講座についてうかがう機会があった。

 ところで「生きる」という言葉を聞いて、あなたはどんな場面を連想するだろうか。
 もしあなたが若く、いわゆる健常者で、自分ひとりで日常生活を回せているのであれば、仕事をして結婚して……と、長期的な人生みたいなものを想像するかもしれない。
 一方、呼吸する一秒一秒が、「生きている」ことそのもの、という人もいる。
 たとえば重度の身体障害をもつ人々だ。
 昔は家の中に隠されていたり、施設の中で管理された生活を余儀なくされている人もまだまだたくさんおられる。
 しかし、どんな障害をもっていても「地域で自立した生活を送りたい」と立ち上がった人びとがいて、それが可能なまちづくりが全国のあちこちで進められてきた。
 重度障害者の訪問介護は、その仕組みの一端を担う仕事。命を預かる仕事でもあるので、その切実さを知ってもらうために、遊歩さんは講座の中でロールプレイングをするという。
 この日聞いたのは、「強制不妊手術を受ける、という状況でやってみた」という話。
 「〈あなたのためなんです〉とか〈拘束しますから〉とか言うと、みんな、ものすご〜くいやがるんだよね」
 と、遊歩さんはにこやかにおっしゃる。
 「それはそうですよね……でも医師役、普通の人では台詞が思いつきませんね」と返すと、
 「ぜんぶ私が言われてきたことだから」
 と言われて絶句してしまった。(注・遊歩さんは強制不妊手術の被害者ではないが、幼少期から意に反して過酷な手術を受けてきた)

 先月、同じ札幌で、重度障害をもつ30代の男性が、訪問介護の職員に暴行を受け亡くなった。報道によると、念願の自立生活を始めた矢先の悲劇だった。
 障害者自立生活運動のトップランナーでもある遊歩さんは、「〈生きてるんですけど〉っていう声なき声を、たくさん聞いてきた」と語る。
 その言葉はいつも、常にリアルな“いのちの授業”だ。

「生きてるんですけど」

この声を聞き取れる人が、もっともっと増える社会をめざしたい。

(文・ミツイパブリッシング編集部)

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