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12.312017
『天国への列車』作者・森下みかん朗読会を開催しました。
予想をポジティブに裏切る
完成度の高い新作に酔いしれたひととき
12月23日イブの前日、雪の降りしきる、まちなか文化小屋。
森下みかんさんと辰衛さんの熱心なファン約20名が参加くださいました。
舞台はその前日、「朗読会やるんなら・・」と演劇関係の方が暗幕の舞台を設置。
祝日の午前中に、小劇場のちょっぴりアングラな雰囲気で朗読会はスタートしました。
1作目は、作者みかんさん自身が読む「お魚と殿さま」(『天国への列車』所収)。YouTubeを見慣れていたため、フルバージョンの娘と魚たちの対話が、改めて心に刺さりました。「お魚が食べたいなあ」と思って書き始めたらこんな話が出てきた、というみかんさんの創作秘話も披露されました。
2作目はみかんさんの新作「人形ハイウェイ」をこれも本人が朗読。舞台はいきなりアメリカの西海岸(予測)。ドライブインで夫を待つ女の前に、大きな白い袋を持った男が座る。袋の中には、ハイウェイに捨てられた人形がどっさり詰まっている・・・会話は続く。夫は戻ってこない。
ラスト近くで女に電話がある。電話の主は警察だった・・・喩えの引き出しが90年代ミニシアター系映画しかないのが恐縮ですが、「バグダッド・カフェ」中の1エピソードにちょっぴりサスペンスとファンタジーが入り込んだような作品。完成度は確実に高く、小さな虐げられるものたちへの視点が必ず見え隠れする、森下みかん作品に通底する部分は健在。もっともっと新作を読みたくなりました。
そして3作目は、森下辰衛さん作「カバゴジラ」の作者による朗読。みかんさんの作風に引っ張られていたのだろう、キメラのようなカバとゴジラの異種交配で生まれた奇妙な動物のせつないストーリーを勝手に想像していたため、足をすくわれるインパクト。
カバゴジラとは、知的障がいを持っていた辰衛さんのおばさんのあだ名で、辰衛少年から見たそのおばさんの人生を、温かく、ときに冷徹に描いた 昭和の青春小説でありました。こう書いてしまうと無粋なのですが、人の差別する心を描きながら、作品全体は差別的とはまったく逆の装い。そのおばさんは、地域の人に感謝され、グループホームの仲間にも囲まれながら、亡くなったそうです。参加者からは「書籍化されないんですか?」の声も。
遠方からの参加者もいらっしゃり、アットホームな雰囲気の中、好評のうちに終了。朗読会、またやりますね! と誓っての散会。
足をお運びくださったみなさま、本当にありがとうございました。