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5.292017
「避妊について」少女のための性の話
大人の事情
避妊、とは、妊娠しないように、避ける、ということです。
男と女が愛し合って、そして子どもができて、子どもが育って、子どもが生まれて・・・というプロセスは、そもそもおめでたいものですが、そうもいかない、子どもができるのは困る、という「大人の事情」が発生する時もある。
そういう時にどうするのか、ということが避妊の話、です。いや、「大人の事情」って、大人だったらいいのかもしれない。
まだ世の中から「子ども」と思われている年齢の時に、「大人の事情」が発生するのが、問題あるのかもしれない。
それは、ともかく。私たち男と女は、たまらなく愛し合いたいけれど、その結果として子どもができるのは困る、という状況も発生することがあるのです。
どういう時がそういう状況かって・・・。それはもう、ある意味、人間の数だけ理由があると言ってもいい。
男と女は、ただ、愛し合いたい、求め合いたい、ってそういうことがあるわけですね。詳しいことはこれから一生かけて学んでいってください。とにかく、あるのです、子どもができたら困るけど、愛し合いたい、という場合が。
それは多くの場合、よきことです。そういうことが自分の人生に起こることは、人生で最も素敵なことの一つ、です。
妊娠を避ける道具
どうしても愛し合いたいのだが、セックスしたいのだが、子どもができては困る、という時に、現在一番多く使われているものが、コンドーム、と呼ばれている避妊具でしょう。
言わずと知れた、薄いゴム製のもので、男性のペニスにつけます。男性器と女性器をゴムというバリアで境目をつけ、直接触れないようにするものですから、英語でバリア・メソッドとも呼ばれます。
男性器と女性器の粘膜同士が直接触れないようにするものですから、エイズを始めとする性感染症、と呼ばれる、セックスによってうつる病気の予防にも使われます。とっても大事なことですね。セックスすることで病気になりたくないですからね。
今、世界中では、避妊具としてよりもむしろ、性感染症の予防のためによく知られ、使われているのが、コンドームです。持ってさえいれば、その場で使える避妊方法ですから、避妊具としてとても人気があるものになっています。
男性器と女性器の接触に「バリアー」を作るコンドームですから、女性側が使うようなコンドームもあっていいんじゃないか、とあなたは思うかもしれない。
実際に、女性用今ドームは開発されています。男性がペニスにかぶせるのが男性用コンドームですが、女性用コンドームは膣内に挿入するようになっています。1990年代くらいから販売されるようになって、日本で手に入っていたこともあるのですが、今は国内では製造も販売もしていないそうです。ですから現実に女性用コンドームをあなたが目にすることはあまりないと思います。
その他の方法
コンドームは避妊もできて性感染症の予防もできるのですが、外れてしまったり、セックスの途中でつけたりすることにより、避妊の効果はあまり確実ではないところもありますから、どうしても妊娠したくない人には、別の方法をとることが勧められます。
例えば、ピルと呼ばれている経口避妊薬、つまり女性が錠剤で毎日飲むホルモン剤とか、お医者さんに行って子宮の中に装着してもらうIUD(Intra Uterine Device)とか、IUS(Intra Uterine Contraceptive system)とかは、コンドームより避妊の効果はずっと高い、と言われているものです。
でもこれらの方法は、お医者さんに行ってアドバイスをもらって使うようにするものですから、本当に頻繁にセックスをするようになって、それでも子どもが欲しくない、というときのもの、と覚えておいてください。どうしても子どもができたら困る、というときにはこういう避妊法もあるのです。
妊娠は奇跡でもある
一方、長い人生において、「どうしても子どもができたら困る」というのは、実は、そんなに何度もあることではないかもしれない。
いろんな事情で、「子どもができたら困るな〜」と思っていても、結局生んでしまって、元気に育って、関係性を変え、家族を変え、世界を変えていくこと、って歴史上、数え切れないくらい起こっているのです。
欲しくないと思う時に、「子どもができないように」することも大切です。けれども、子どもって、「欲しい」と思って、できそうな時にセックスしたら、「はい、できました」というような、そんなものでは決してないことも、歴史が物語っています。
昔の人が言っていたように、「子供は授かりもの」。
現代医療を始め、全ての科学技術を動員しても、子どもができること、つまりは着床や妊娠や出産については、まだまだ、わからないことがたくさんあるのです。科学的に必ずうまくいくはずだ、と思っていても、予想通りにいかないことも多い。
いろいろな事情もあるとはいえ、もし、妊娠したら、それはもう、奇跡のようなもの。相手がどうであれ、どういう事情であれ、最終的にどうなれ、あなたの体は見事に機能しているということ。まずは、人智を超えた寿ぐべきこと、ということも、覚えていてほしいと思います。
「待つ」というオプションも
これを読んでくださるのは、中学生の皆さんでしょうか。小学校高学年の皆さんでしょうか。それとも高校生くらいでしょうか。
皆さんのような、今の世の中でまだ「大人」とみなされていない人が、男と女として、子どもができないようにさえすれば、セックスしても良いのでしょうか。分別ある大人なら、小学生や中学生には、セックスすることはできても、まあ、やめておいたほうが良い、というでしょう。
高校生くらいになったら、女性は16歳で結婚できるくらいですから、年齢的には、子どもと言えないところもありますけれども、親や、保護者がいるような状況で、避妊さえすれば、好きなようにセックスしても良いのか、と問われると、簡単に、はいどうぞ、みなさんやってもいいんですよ、とは言えません。
10代の皆さんが、命をかけるような恋をすることだってあるでしょう(シェークスピアの「ロミオとジュリエット」の、ジュリエットは14歳、という設定ですから)。そういうことになったあなたにセックスをするな、と言っても、止められはしないのかもしれない。
しかし、もう少し大人になると、あなたがたには、誰にも何にも言われることなく、いくらでもセックスして良いような状況がやってきます。セックスは年をとってもできるのですから(方法はいろいろですが)、将来の楽しみとしてとっておいてもいい。
今は、子どもができるのも困るし、セックスのことばかり考えているのも支障があるでしょうから、自分で「大人になったな」と思える年齢まで、セックスするのは「待つ」ことにする、というオプションもあるわけです。
それを英語で abstinence(アブスティネンス)と言います。これはもともと「節制」という意味ですが、避妊やリプロダクティブヘルスの業界では、要するに「セックスしないようにしましょう」ということを意味します。
避妊法、あるいは性感染症予防策として、あまりに原始的かつ道徳的に聞こえるので、評判が悪かった時期もありました。でもやっぱり、まだ、「子ども」のあなたには、もうちょっと待って、人生はこれから長いから、と言いたいような気が、するのです。
人生は長い。ゆっくり、自分の心と対話しながら、体を愛おしんで過ごしてください。
三砂ちづる (みさご・ちづる) 1958年山口県生まれ。兵庫県西宮育ち。津田塾大学国際関係学科教授、作家。京都薬科大学卒業、ロンドン大学Ph.D.(疫学)。著書に『オニババ化する女たち』、『昔の女性はできていた』、『月の小屋』、『女が女になること』、『女たちが、なにか、おかしい』、『死にゆく人のかたわらで』、『五感を育てるおむつなし育児』、『少女のための性の話』、訳書にフレイレ『被抑圧者の教育学』、共著に『家で生まれて家で死ぬ』他多数。
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