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アイルランドのクリスマス〜津川エリコのダブリン便り01 【クラウドファンディング挑戦中!】

ダブリンの津川エリコさんから、クリスマスに合わせて近況をお寄せいただきました。

「アイルランドのクリスマス」津川エリコ

アイルランドのクリスマス

国民の95%がカトリック教徒と言われているアイルランドでは、クリスマスは、一年で一番大きな祝日です。
子どもたちにとっては贈り物がもらえる日。アイルランドは長い間、国外へ出て働く人が多かったので、親にとっては息子や娘たちが帰って来る日でした。今年、親しい人を失くした人にとっては、その人なしで迎える最初のクリスマスは、喪失感の深まるつらい日です。若い人は、職場や友人たちとのパ―ティで12月の週末は埋まってしまいます。

私にとってのクリスマスは、近所の家々が戸口や軒や窓辺に飾り付ける「豆電球の灯り」です。白や黄色やブルーの灯りは、冬至の日に向かってどんどん伸びてゆく長い夜を大いに慰めてくれるものです。雨が降っていなければ、夕食後のぶらぶら歩きをします。それぞれに工夫された灯りのデコレーションを眺めながら、これはやり過ぎだ、とかこれは趣味がいいとか、まあ勝手なことを言っています。軒から下がるつららを真似た飾りを見た時には、ホームシックになりました。やはり冬はふるさと、北海道のことを思い出す季節です。

深まった夜に対抗して光る豆電球の連なりはきっぱりと文句なくきれいです。道に迷った人が遠くに光る灯りを見て「助かった」と思う瞬間さえ想像されます。洞窟で暮らした太古の人々が、星や焚火の炎に感じたものを、現代人も未だに持っていることでしょう。ギリシャ人は星を繋げて動物や戦士や神々の物語を紡ぎました。クリスマスツリーを飾っている家では、カーテンを開けたままにしてあるので、外からも眺めることができます。

夜の散歩は宮沢賢治の銀河鉄道に乗って、あちこちの星の間を旅する乗客のような気分です。賢治は法華経の熱心な信奉者でしたが、妹を通してキリスト教とも接触がありました。主人公、ジョバンニはヨハネのイタリア語です。友だちのカムパネルラは川に落ちたザネリを救おうとして溺れ死しました。これは、福音書のヨハネ15:13「人がその友のために自分の命を捨てること、これよりも大きな愛はない」に符合します。

賢治は仏教における慈悲をキリスト教の犠牲や献身に見ていたかも知れません。カムパネルラは既に死んでいるのですが、ジョバンニにもう一度会いに来ました。お母さんが病気で、お父さんは遠くにいて、いじめられることの多い、この友人を心配していたからです。二人は銀河鉄道の中で「本当の幸せ」について話します。カムパネルラの服は濡れていました。宇宙の果てまで空想の広がる物語です。

一方、空がまだ昼の明かりを残している時に豆電球が光るのは、まさに一番星が無数にあるような様子です。灯りは人の祈りの具現です。人は灯りと交信します。クリスマスの豆電球は、身近に降りて来た銀河の星たちです。

 

▼2024年2月29日まで挑戦中のクラウドファンディングプロジェクト
【小熊秀雄賞詩人】アイルランド在住、津川エリコの『雨の合間 Lull in the Rain』を再出版したい – MotionGallery

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