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森達也『ぼくらの時代の罪と罰』 あとがきを一部ご紹介

12月10日に発売する、森達也『ぼくらの時代の罪と罰 増補新版きみが選んだ死刑のスイッチ』のあとがきから、一部抜粋してご紹介します。

あとがき

  11月6日、東京の京王線電車内でジョーカーのコスチュームを着ながら殺人未遂事件を起こした24歳の容疑者は、動機について「人を殺して死刑になりたかった」と供述した。その二日後、九州新幹線の車内で床に火をつけて放火未遂の疑いで逮捕された69歳の容疑者は、「京王線の事件を真似て自殺しようとした」などと述べているという。その翌日である11月9日、宮城県登米市のこども園に刃物を持った31歳の男が侵入して逮捕され、「小さな子どもを殺して死刑になるためにやった」と供述している。

 この3つの事件に共通することは、事件の動機に死刑制度が見え隠れしているということ。

 でもだからといって、死刑がなければ事件は起きなかったと考えるのは、ちょっと早計だと僕は思う。死刑になりたいと考える彼らは、今の社会や制度にとても追いつめられていた。ならば仮に死刑制度がなくても、何らかの事件は起きていたかもしれない。やっぱり新幹線内で2018年に一人を殺害して二人に傷を負わせた23歳の男は、一審判決で無期懲役を言い渡されたとき、「控訴しません。万歳三唱します」と言ってから万歳三唱を繰り返した。彼は子供のころからずっと、刑務所に入ることが夢だったという。

 この4つの事件だけではなく、罰を受けることを目的とした事件が最近は増えている。つまり「罪と罰」の概念が揺らいでいる。刑罰が犯罪の抑止として有効に機能していないことは確かだ。

【特設ページ】森達也『ぼくらの時代の罪と罰』12月10日発売

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