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森達也×井田香奈子 「裁判員になったとき、死刑を選択できますか?」 イベントリポート

2021年12月19日に本屋B&Bで、『ぼくらの時代の罪と罰』を出版した森達也さんと、朝日新聞論説委員の井田香奈子さんによるトークイベントを開催しました。

井田さんは、朝日新聞で司法の論説を担当されています。

以下、ダイジェスト版の動画になります。

 

そして、下記では冒頭のやりとりを一部ご紹介します。(トークの書きおこしを一部加筆修正しています)

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 井田さんとは今日初めてお話するんですけれど、朝日新聞に掲載された井田さんの社説は何度か読んでいます。なぜ死刑制度に関心を持ったのか、それを最初に質問していいですか?

井田 1992年に朝日に入りまして、振り出しが札幌でした。2年目で司法担当をしていたときに死刑執行がありました。その前、死刑を執行していない時期が3年4ヶ月あって、再び執行が始まった。司法担当だったにもかかわらず、死刑の執行について自分で取材する立場になるということに、あまり思いが至っていませんでした。

死刑執行についての原稿は東京の法務省担当と最高裁担当が原稿を作りますが、先ほど言いました通り3年以上間があいてからの執行だったので、社会的にとても関心をもたれている時期でした。札幌ってすごくいいところで、裁判所、検察庁、弁護士会とそれぞれの法曹三者の人たちという狭いコミュニティの中で、和やかに、自分の親世代の方たちから勉強させてもらいながら取材活動をしていましたが、死刑については全然違いました。「執行があったのか」と尋ねたときは、表情も違ったんです。今思うと、それが答えだったのですが、「そのことは言えないことになっているから」という感じで。死刑が堂々と制度としてあるのに、その執行があったかなかったかも言えない、隠さなければならないものだということが、すごくショックでした。それが、私が死刑制度に対して本質的な疑問をもった始まりです。

東京に来て2001年から法務省担当になって、執行したかどうかの取材をする立場になりました。同時に死刑廃止議員連盟の活動がさかんになり、いよいよ国会で死刑廃止法案をベースに議論されるときが来るのではないかと思った時期もありました。その後、ブリュッセルに3年ほど行きましたが、とうに死刑のない世界がそこにはありまして。そもそもヨーロッパには、日本が死刑を執行していることを知らない方もいらして、すごく意外に思われるんです。先進国ですよね、犯罪の少ない国なんですよね、と。死刑があるというと「えー、なんでなんで?」と言われるので、同じような経験のある方はいらっしゃると思うんですが、そこでちゃんと説明できる自分でなければならないと思いました。

 ヨーロッパで日本にはなぜ死刑があるのかと訊かれたときは、何と答えたんですか。

井田 国民の8割がたが死刑制度の存置を望んでいるという世論調査があります。ワーディングの問題があって額面通り8割と受けとめていいわけじゃない部分があるとはいえ、大方の国民が支持しているので、なかなか廃止にならないんですよね、と答えました。そこで返ってくるのが「え、死刑って人権問題ですよね、多数決の問題じゃないですよね」と。そこがずれているのかな、と。日本ではたぶん、死刑制度が人権問題という設定で受けとめられていない。それで、議論がすれ違ってしまうのかもしれないと思いました。

 国民の10人のうち8人が、(死刑囚の)人権は認める必要がないと考える。確かに明らかに異常な事態です。ただ、人権は認めないとの意識すらないと思う。悪いことをしたから死刑。そこで思考が止まっている人が多いと思います。

井田 そうですね。新聞社は、読んでくださっている読者の反応を見ながら、みなさんが知りたいと思っていることを伝えます。市民の様子を見ながら報道しているなかで、人権がすべてなんだと言いにくいがゆえに、死刑の報道が充分に練られてこなかったのかなという気持ちもあります。

私は勤務ジャーナリストですが、森さんは自分の会いたい人にどんどん会って、本の中でも、死刑に関しても直接携わっている人や当事者に取材をしていますよね。そこから伝わってくるもの、見えてくるものから、新聞がカバーできていないところを、みなさんに考えていただきたいと思います。

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お二人の対話を聞いて、死刑制度についてあまりに知られていないこと、日本には死刑にするかどうかの判断を迫られる裁判員制度もあり、その対象が18歳からに引き下げられたことを受けて、高校生への情報提供が必要であることも改めて感じました。

また世論調査では死刑の存置に賛成が圧倒的ですが、「将来的には死刑廃止もよい」が4割というグラフも紹介。
制度を遂行する法務官僚などの立場を考えても、死刑制度は果たして持続可能なのか? という問いかけも井田さんからありました。

もし裁判員に選ばれたら、究極の厳罰をあなたは選択できますか。

 

ぼくらの時代の罪と罰 増補新版きみが選んだ死刑のスイッチ

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