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「分けない」教育が札幌にもあった 第17回北欧に学ぶ創造性教育ワークショップ 起業家〈精神〉教育体験リポート

待ちに待った川崎一彦さんのワークショップ。今回は第17回だったはずの旭川編が、台風の影響で川崎さんの来道叶わず中止……。10月14日、札幌にてのワークショップが第17回になりました。
テーマは「起業家〈精神〉教育」。

冒頭は、「気候のための学校スト」を始めた16歳のグレタ・トゥーンベリさんのお話から。
国連の気候変動サミットで行動しない大人たちを強烈に批判したスピーチは、日本でも大きく報道されました。
今、もっとも有名なスウェーデン人の一人と言ってよいでしょう。
グレタさんは、(二酸化炭素の排出量が多い)飛行機を使わないことを、俳優である父親と母親に同意させたというエピソードを紹介。
ちなみに川崎先生は先日、そのグレタさんのお母さんの舞台を観劇してきたそうです。

グレタ・トゥーンベリさんについて語る川崎一彦さん。

グレタ・トゥーンベリさんについて語る川崎一彦さん。

それから先月、朝日新聞の読書欄で『みんなの教育 スウェーデンの「人を育てる」国家戦略』が取り上げられたことについても。
教育社会学者の本田由紀さんに、既刊であるにもかかわらず紹介いただきました。
https://mitsui-publishing.com/media/asahi20190921

記事では『みんなの教育』「第4章 スウェーデンの主権者教育」(鈴木賢志さん執筆)に注目。
今年7月の参院選の投票率(48.8%)をスウェーデンから眺めていた川崎先生。「日本は果たして民主主義国家と言えるのか?」と思われたそうです。
川崎先生が札幌の東海大学勤務のころ、地方から来た学生さんたちは皆、住民票を移動しない。
「なぜ?」と聞くと、「自分の一票に意味があると思えないから」と。
おそらく今の大学生も、そう変わらない心理なのではないでしょうか。
『みんなの教育』第4章では、そうした日本とスウェーデンの若者比較も論じられています。

さて、今日のテーマは北欧の起業家〈精神〉教育。
それは狭義の起業家教育ではなく、知業時代に対応する、広範な教育の意識改革です。
基本的なコンセプトは以下の3つ。

・教える教育から学ぶ教育へ
・内容よりも方法を重視
・全ての科目にわたって〈起業家精神教育〉的考え方を導入する

現場では次の3つが主眼とされています。
・自分で考え判断する態度の育成
・学ぶ動機の維持
・実社会との壁を取り払うこと

広義の起業家〈精神〉教育の概要を解説されたあと、本日のゲスト、札幌大通高校の西野功泰先生の話が熱かった……!
知り合いの卒業生がいるのでその噂は知ってましたが、期待以上のエキサイティングなお話でした。

札幌大通高校の西野功泰先生

札幌大通高校の西野功泰先生のお話。

大通高校はその名の通り、大通という札幌の中心地にある市立校。生徒総数1100名、教職員100名。
三部制(定時制がある)で単位制という特色があります。
不登校経験6割、生保世帯1割、非課税世帯2割……と聞けば、だいたいのイメージをつかめるのではないでしょうか。
グーグル検索すると「大通高校」「はちみつ」と出てくるのですが、校舎の屋上で養蜂をしている。担当はもちろん生徒。
生徒たちのはちみつがなんと、全国的なコンテストで日本一に。
北海道ではテレビニュースにもなったので、ご存じの方も少なくないと思いますが、他にも3部制の特色を活かしてダンスや三味線など音楽活動、東京に通ってアイドル活動をする生徒も。
外国籍の生徒の受け入れ(常時10カ国程度)や、特別支援教育の視点を持った配慮を大切にした学校となっています。

札幌大通高校のはちみつとスウェーデンのチョコレート

札幌大通高校のはちみつ(左)と、スウェーデンのチョコレート(右)。

「多様な大人の価値観に触れながら、本物の体験ができる場を作っています」と西野先生。
「地域を学びのフィールドに」というコンセプトもあり、校内完結ではない活動であることも特徴。
西野先生自身が高校生チャレンジグルメコンテスト、チャレンジオータム(地元食材を活用した商品を企画開発、販売する)の事務局長と、アニマドーレ(食農体験プログラム)等のスタッフを務めています。
そうした様々な外とつながるプロジェクトが校内の掲示板に張り出され、規定の時間(35単位時間35×45分)活動すれば単位として認められるのです。
この日の参加者から早速、プロジェクトの提案が上がっていました。

最後の質疑応答で、「いちばんの壁と思ったことは?」という川崎先生の質問に、「その時々に協力者が存在し、やりたいと思ってできなかったことはない」と答えておられた西野先生。

『みんなの教育』のあとがきで、スウェーデンの教育には「現在の日本の教育に見られる様々な壁を取り払い、みんなひっくるめて『分けない』ことが、より良い教育につながる」という価値観がある、と紹介されています。

しかし。社会との壁がない、むしろ積極的に社会とのつながりを創り出している公立校が、札幌にあるというのは大発見でした。
近年は全国的にも、校則をなくしたり、宿題や期末テストをなくした学校が話題です。
西野先生のような、突破する公立校の先生に出会うと、壁というのはもしかして、一人一人の中にあるのでは? と思えてきました。

(文・ミツイパブリッシング編集部)

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少子高齢化や不況を乗り越え、急成長を遂げる北欧の高福祉国家・スウェーデン。彼らはなぜワークライフバランスを保ちながら経済成長、多文化共生、持続可能性を同時に実現できるのか?幸福と成長を両立させるスウェーデン式・教育制度の秘密に迫る。https://mitsui-publishing.com/product/minna

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