新刊
魂の音楽よ、日本に届け / 吉田裕史
小澤征爾の指揮に感銘を受け、「指揮者になろう!」と決意した高校生が、クラシック音楽の本場ヨーロッパへ乗り込んだ。オペラの聖地イタリアを拠点に数々の「日本人初」を成し遂げ、やがて「日出ずる国のマエストロ」と呼ばれる存在となる。コロナ禍ではボローニャの病院や教会に音楽を届け、戦火に覆われるウクライナでも音楽の力を信じてタクトを振り続けた。世界に挑戦するすべての若者たちへつなぐ、情熱のバトン。
前書きなど
音楽大学指揮科の学生時代、プッチーニ《ラ・ボエーム》を初めて指揮しました。舞台と客席が一つに溶け合い、目に見えぬ熱と輝きが空間を満たしていく――その瞬間、私の心はオペラという果てしない世界に捕らわれました。
やがて歩みはイタリアへ。国費留学生として研鑽を積む日々にミラノ・スカラ座で耳にしたオーケストラの響きは、私の音楽観を根底から揺さぶりました。
古代遺跡ローマ・カラカラ浴場の星空の下、日本人として初めてタクトを振った夜。プッチーニ・フェスティバルのリハーサルで、オーケストラを前に自らの殻を破った瞬間。マントヴァで音楽監督を託され、「オペラで街を語る」という使命を担った年月。卓越した芸術性を誇るボローニャ歌劇場フィルハーモニーの芸術監督として、精鋭たちと共に音楽を届けた8年。ボローニャ歌劇場首席客演指揮者としても、幾多の舞台を作ってきました。
そして2023年、戦火に揺れるウクライナ・オデーサ。空襲に幾度もリハーサルを遮られながらも指揮した《ラ・ボエーム》は、満員の観客に迎えられました。その中には休暇中の兵士たちの姿もありました。終演後、一人の兵士が私の前に立ち、静かに言いました。「明日、戦地へ戻ります。最後に、美しい音楽を聴けたことが、何よりの幸せでした」――音楽は、国境を越え、時を超え、人と人とを結び、命のただ中に光を灯す。この揺るぎない信念こそが、私を今日も指揮台へと立たせるのです。
目次
第1章 音楽との出会い、指揮者になる決意
音楽との出会い/小澤征爾ショック―「指揮者になりたいんです!」/音楽大学へ/指揮科の学生として│東敦子との《ラ・ボエーム》/世界を知る ドナウ川のほとりの決意/2年目のウィーン/初めてのイタリアシエナでテミルカーノフに学ぶ/日本での活動オペラ団体に指揮者として関わる
第2章 ヨーロッパで「本物」と出会う
スウェーデンからドイツへ/マエストロ・メルクルのもとで/ミュンヘン時代/マゼール国際指揮者コンクール/指揮者は音楽そのもので語れ/イタリアが呼んでいる!
コラム1 法に息づく、オペラという文化
第3章 イタリア、ローマでの日々
ローマ拠点に修業は続く/音楽と文化(1)アメリカでの体験/音楽と文化(2)イタリアならでは/ローマの母、朋子さんとの出会い/エルナーニ総監督のもとで/オペラ、この不滅の文化/ズービン・メータ、フジコ・ヘミング/バルトーク国際オペラ指揮者コンクール誓いを果たす
第4章 イタリアオペラに賭ける
スカラの妖精/スペイン舞踊のハリケーン/カイロの《アイーダ》/カラカラ浴場の《道化師》/挑戦者として/大使館のサムライ/マントヴァ歌劇場音楽監督就任/プッチーニ・フェスティバル/生きた音楽/音楽が人と街を動かす/ソリストたち/ヴェルディ《リゴレット》の日々/カイロのチャイコフスキー/午前10時にシチリアへ/オペラを読み解く
コラム2 歌劇場オーケストラとフィルハーモニー
コラム3 イタリアにおける地政学的キャスティング
第5章日本とイタリアを架ける
清水寺公演/世界的フルート奏者ジョルジョ・ザニョーニとの出会い/音楽の聖地ボローニャ/ボローニャ歌劇場フィルのコンサートマスターと/伝統芸能とオペラの対話/美しい音色で!/イタリア語の生きた感覚/二条城の《蝶々夫人》/歌劇場本体の首席客演指揮者に/ジャパン・オペラ・フェスティヴァル/日本のオーケストラとサウジアラビアへ/コロナ禍のイタリア/音楽の求められるところへ
コラム4 オペラ歌手の声、その多彩な世界①
コラム5 オペラ歌手の声、その多彩な世界②
第6章戦時下のウクライナ魂の音楽よ、日本に届け
オデーサ歌劇場オーケストラとの出会い/杉原千畝の選択/侵攻後のオデーサへ/オデーサの《ラ・ボエーム》/「傷ついたウクライナへ音楽を」/日本公演への道のり/戦火の地へ、再び/ついに日本へ/旅の続き
著者プロフィール
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1968年北海道北見市常呂町生まれ、千葉県船橋市育ち。東京音楽大学指揮科、同研究コース修了。1999年文化庁派遣芸術家在外研究員として渡欧、バイエルン国立歌劇場などで研鑽を積む。2006年トリエステ・ヴェルディ歌劇場において同管弦楽団を指揮、2007年ローマ歌劇場カラカラ野外劇場にて日本人初の指揮者として「道化師」でイタリアにおけるオペラデビュー。2010年マントヴァ歌劇場の音楽監督に就任、同年プッチーニ・フェスティバルで初の日本人指揮者としてプッチーニ作品を指揮。2014年ボローニャ歌劇場フィルハーモニー芸術監督に就任、250年の歴史を持つイタリアのセリエAクラスの歌劇場を母体とするオーケストラの芸術監督就任はアジア人初。2015年ボローニャ歌劇場首席客演指揮者に就任、2020年ボローニャ歌劇場フィルハーモニー首席指揮者を兼任、2021年ウクライナ国立オデーサ歌劇場首席客演指揮者に就任しイタリアオペラを担当。2022年モデナ・パヴァロッティ歌劇場フィルハーモニー音楽監督に就任。日本では清水寺、二条城、姫路城・京都国立博物館、奈良平城宮大極殿、名古屋城、法隆寺で国際的水準の野外オペラを指揮。2024年、文部科学大臣賞表彰。
書籍情報
判型: 四六判
価格: 2,200円+税
ISBN: 978-4-907364-42-7
発売日: 2025年10月5日
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