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「第16回 大学で世界旅行」

なつかしい未来の国からバナー_青空と一本の木

多様な文化の学生と出会う

 今回は、留学生の代表の仕事が実際にどんなものだったかを振り返ってみようと思う。

 私の大学の学生会には、十一のポジションがあり、それぞれ働く時間数が分かれていた。学生会長は週四〇時間、副会長、教育委員、厚生委員、会計は週二〇時間、留学生代表などその他の役割は週一〇時間ということになっていて、それに見合った報酬が出る。

 仕事は大きく分けて、自分の役割に特化した仕事と、学生会役員としての総合的な仕事の二つがあった。前者は、留学生の代表だったら、留学生のカリキュラムを決める大学の委員会に学生の声として参加することなどで、後者は、学生会のキャンペーンなどを手伝うことだった。それに加えて、留学生の代表の場合は、いろんな文化部の学生たちとイベントを企画するという仕事があった。一人で企画するのは大変なので、留学生委員会というグループを立ち上げて、共に計画して運営する仲間を募ることができた。

 この仕事の中で、間違いなくいちばん楽しかったのは、いろんな文化圏から来た学生たちと出会えたことだった。

 オタゴ大学には、約二〇の文化部がある。文化部と言うと、「詩の朗読」とか「お茶」とかそういうのを思い浮かべるかもしれないけれど、こちらの大学の文化部は、各国の国の学生達が自分たちの居場所として、また、他の学生達に文化を共有するために作る「文化部」なのだ。二〇と聞くと、そんなに多くないかもしれないが、ラテン、アフリカ、太平洋の島々、アジア各国と中東など、本当に世界中の学生達がいたので、その分だけ多様な文化部があった。

一年の始まりには、どの文化部も新入生の歓迎会をする。私も文化部の学生たちに挨拶をするため、歓迎会にお邪魔しに行った。フィジー、トンガ、サモアといったポリネシアやメラネシアの島々の文化部の歓迎会は、必ず手作りのご飯が出てきて、スピーチが行われるたび、歓声が上がり、盛り上がった。陽気な島の人たちのあたたかさを感じた。アフリカ文化部の学生たちは、バーを貸し切ってダンスパーティーを企画し、アジアの文化部は、広いスペースを借りて、ゲーム大会をするところが多かった。

 普段、大学の中にいると、こんなに様々な文化を持った学生たちが同じ空間を共有しているのを忘れてしまう。

 多くの文化部の学生たちは、「Home away home(遠い土地での故郷)」を合言葉にしていた。もちろん、同じ文化から来たから、みんな仲良しになるというわけでもなく、内輪だからこそ難しかったりすることもある。だけど、自分の文化圏から離れても、同じ文化を持つ学生たちと集まって居場所を作っている学生達に感心していたし、参加させてもらう時は、文化が違っても、私までほっとするような空間があった。

夜市は一大イベント

 そんな文化部の学生たちと一緒に企画した一大イベントは、年に二回ある夜市だった。ほぼ全ての文化部が、それぞれ自分の国の料理を屋台に出すというもので、とても賑わう。

日が暮れる前の夜市の様子

日が暮れる前の夜市の様子

 二カ月前くらいから下準備やミーティングが始まり、イベント四日目くらいから大学のキッチンを借りて、文化部の学生たちが料理を始める。私と、留学生委員会のメンバーたちも一緒にキッチンに同行して、四日間、学生たちが食品衛生のルールに従っているか、見守る。キッチンは、同時に五つの文化部しか使えず、各文化部は、全部で十二時間くらいキッチンを使えることになっていた。

 だけど、いざ始まるとハプニングが絶えない。私が担当の年は、香港の学生たちがご飯を炊くのに失敗してしまったり、アフリカの学生たちがドーナッツを揚げていたら油がすごい勢いで飛び散ってしまったことがあった。そうなると、自分たちが確保した時間内に料理を終わらせるのがなかなか難しくて、その上、後片付けも長引いたりする。「もう少し時間を延ばしていい?」と聞かれる状況に、私は困った。その部の料理時間を伸ばしてしまうと、次の部の調理時間が短くなってしまう。両方の要求に同時に応えるのは、無理なことだった。

 最初のうち、どちらの言い分も聞こうとした私の答えが曖昧だったため、事態が混乱したのを見かねて、留学生委員会のメンバーが「ちゃんと、地に足をしっかりつけて、決断して!」と注意してくれた。私がしっかりとした基準を守っていないと、自分の要求を主張できる人にだけ、有利になってしまうからだ。

 注意をしてもらった後も、正直いろんなドタバタは絶えなかった。でもなんとか、イベント開始時間には、大学の広場に二〇個ほどの屋台がずらっと並んで、ライブの音楽が流れた。そして、たくさんの学生や一般の人たちが、それぞれの文化部の屋台のお料理を楽しんでいるのを見た時の達成感は、ひとしおだった。

 この他にも、留学生委員会で、スポーツイベントや、文化部同士の交流のためのワイン&チーズパーティ、プチ文化祭など、いろんなイベントを企画した。また、文化部も独自でショーを開催したり、それぞれの新年のお祝いのイベントをしたりと、イベントづくしの一年だった。

留学生委員会のメンバーたち

留学生委員会のメンバーたちと

 

ラマダンにモスクでお祈り

 この仕事をする中で文化の違いや儀式や習慣について、たくさん学ばせてもらった。その中でも、よく記憶に残っているのは、ラマダンの月にモスクにお邪魔したことだ。

 ラマダンとは、イスラム暦での第九月の間、日の出から日没まで断食すること。モスクに行くのを誘ってくれた学生たちと出会うまで、私はラマダンのことを知らなかった。彼女たちは、ラマダンは断食することで、日々の恵みに感謝するのと同時に、世界の貧富の差について考え、浮いた食費をチャリティーなどに寄付するのが目的だと教えてくれた。

 ダニーデンのモスクは多国籍だ。ムスリムは中東というイメージもあるけれど、スリランカやマレーシアなどアジアの国の人たちも多い。今ではダニーデンに住んでいる様々な国から来た人たちが代わる代わるみんなのためにご飯を作り、日没後にモスクに来る人全員に、無償でご飯を提供している。それぞれの国では、モスクや家で、家族で過ごすそうだ。だけど、こうして多様な国の人たちと一緒に過ごすのも、とても特別で楽しいことだと言っていた。

 ニュージーランドでは、ラマダンの時期に大学のテスト期間がだいたい重なる。根を詰めて勉強しなければいけない時期に、断食をするのは、かなり大変なことだ。

 私もモスクにお邪魔した日を含め三日間だけ、断食をしてみたけれど、水も飲んではいけないのがつらかった。けれど、同時にたくさんの人と一緒に断食していると思うと、団結力みたいなものを感じて、だんだん楽になったように思う。そして、モスクで大勢の人たちとご飯を共にしたあと、一緒にお祈りも捧げさせてもらった。繰り返してお祈りするうちに、優しい気持ちになっていった。

宇宙さんとモスクに誘ってくれた友人

宇宙さんとモスクに誘ってくれた友人

 近年、ムスリムの人たちは、世界で「テロリスト」扱いされることがあったり、いろいろな偏見にさらされている。モスクで体験した暖かい空間とムスリムの人たちの多様さを通して、こういった偏見がいかに間違ったものかひしひし感じた。

 地図上で見ると世界の果てみたいな場所にあるこの大学で、こんなに多様な文化から来た人たちと出会うなんて、想像していなかった。留学生であることの最大の魅力の一つは、世界中の留学生と出会えることだと思う。文化は違っても、同じ「留学生」という立場を共有しているから、すぐに仲間意識が生まれるのだ。たくさんの留学生からそれぞれの国の話を聞きながら、世界中を旅しているような気分になる時もあった。

 学生会の留学生の代表になって、難しさを多々感じた一年だったけれど、こうしてたくさんの留学生やいろんな国の文化と関われることが、私のエネルギーの源だった。

安積宇宙プロフィール画像_ニット帽
安積宇宙(あさか・うみ)
1996年東京都生まれ。母の体の特徴を受け継ぎ、生まれつき骨が弱く車椅子を使って生活している。 小学校2年生から学校に行かないことを決め、父が運営していたフリースクールに通う。ニュージーランドのオタゴ大学に初めての車椅子に乗った正規の留学生として入学し、社会福祉を専攻中。大学三年次に学生会の中で留学生の代表という役員を務める。同年、ニュージーランドの若者省から「多様性と共生賞」を受賞。共著に『多様性のレッスン 車いすに乗るピアカウンセラー母娘が答える47のQ&A』(ミツイパブリッシング)。
Twitter: @asakaocean
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