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教育行政のウラ話がてんこもり『教育鼎談 子どもたちの未来のために』

『教育鼎談 子どもたちの未来のために』内田樹・寺脇研・前川喜平著

 

思想家で武道家の内田樹(たつる)さんと、ミスター文部省と言われながら「ゆとりバッシング」の矢面に立った寺脇研さん、加計学園の「総理のご意向」文書に関して「あったことをなかったことにできない」と記者会見した元文科次官の前川喜平さん。
この三名が、日本の公教育はどうあるべきかについて、語り合った本です。
ちなみに「鼎談」は「ていだん」と読み、三人が向かい合って話をする、という意味の言葉です。

内田さんの教育論はもちろん読みどころの一つですが、実際に教育行政を担ってきた寺脇さん、前川さんによる現場由来の解説は非常に説得力があります。
偏差値至上主義とか進路変更がしにくいとか、あのとき学校で体験したことの裏には、こういう流れがあったのか・・・と発見が多くありました。

たとえば、ゆとり教育バッシングは記憶にある方も多いでしょう。「ゆとり世代」と揶揄されてきたトラウマをもつ世代もいます。
しかし本来ゆとりは、小学校で集合を教えたり、「新幹線授業」という言葉が生まれるほどに行きすぎたつめこみ教育の対策として80年代に出てきた言葉で、それを、2000年代に批判語としてマスコミが使った、という話が出てきます。

そして今また、時間割も通知表もない、山羊の成長を教材に学ぶ長野県の伊那小学校に、注目が集まっています。これは明らかに脱ゆとり(ゆとり批判)の揺り戻しで、さらに前川さんによれば、日本の近代教育の歴史の中で、ゆとりはすぐ後でつぶされてきた。前川さんは「新教育」という言葉を使っていて、大正新教育は軍国主義によって、戦後の昭和新教育は高度成長によって、平成新教育(=今日知られるゆとり教育)は新自由主義と戦前復帰型の政治によってつぶされたと言います。
内田さんもゆとり教育は方向として正しいと言っていますが、ゆとりのスポークスマンを務めた寺脇さんは、「子どもたちにとってはその意味が十分わかると気持ちのいいものであって、多くの大人にとっては嫌なものだった」と振り返っています。

他にも不登校や学校選択制、公教育の市場化、学術会議問題やモリカケ疑惑など、ニュースだけでは伝わらない教育行政の裏話が満載の一冊です。(編集N)

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