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「第15回 空港が好き」 少女のための”海外へ出ていく”話

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あなたはどのフェーズにいますか?

 空港に漂う、なんともいえない、わくわくとした感じが好きです。どんなに仕事に追われていても、出張ばかりで空港に来ることが続いていても、空港に着くと、なんだか、ただ、わくわくする。

 おそらく、スーツケースを持って、空港に立つこと自体が好きなんだと思います。

 いま、わたしは大学の教員をしています。大学の教員は、先生として学生に教えるのも重要な仕事ではありますが、同時に、何か自分が専門とする分野の研究を進めて行くのも大切な仕事です。現在、勤めている大学では、夏の2カ月くらい授業がないので、自分自身の研究のためにまとまった時間を使うことができます。

 わたしの専門は、第4回で書きましたけれど「国際保健」とか「女性の保健」とかいう分野なので、もともと海外で行う仕事が多いし、研究としてもこの夏の期間を利用して、国内外のいろいろなところに出かけることになります。今年の夏も、カンボジアやベトナムやフランスやエルサルバドルなど、国内も沖縄や伊豆諸島などあちこちに行くことになり、数えてみたら、ひと夏の間に16回も空港に足を運んでいます。

 それだけ行っていたら、疲れて、いやになりそうなものですが、ならないんですね。それが。

 空港に着くたびに、どこかに行けることがうれしくて、どきどきしてしまいます。帰路の空港は、家に帰ることがまた、うれしく、それもまた、わくわくするのです。

空港でトランクを引く女性と窓の外の飛行機

 人生にはフェーズ(局面)というものがあって、いま、この「少女のための海外の話」を、実際に「少女」として読んでくださっている方々は、まだまだ人生はじまったばかりのフェーズといえますね。幼い子どもだった時代がおわり、自らの考えがはっきりしてきて、さらに深い学びにむかい、新しい人たちに出会って、友人を作り、恋人を作り、家族を作っていく。

 いろいろなパターンがありますが、まあ、だいたいこんなかんじで人生は進み、その間に仕事とか、役割とかが出てきて、あなたはいまよりずっと多くのことに関わったり、責任を持ったりするようになります。

 それは大変なことに思えるかもしれないけれど、そういった一つ一つの新しい役割は、あなた自身をよりたくましく、成熟させ、成長する喜びをあなたに与えてくれるものですから、どうぞ楽しみにしていてください。

ひとりの時期、家族の時期

 私自身にもいろいろなフェーズがありました。

 ひたすら学んでいたフェーズ、仕事を始めたフェーズ、好きな人と暮らしはじめたフェーズ。そして、海外に出て行きはじめたフェーズ。新しい家族生活のフェーズ。20代半ばから30代にかけてのころは、ずっと海外で仕事をしたり、暮らしていたりしたので、とにかく、あちこち出かけていました。

 そのフェーズがおわり、日本に戻ってきて、もう20年近い時間が過ぎました。その間に、子どもたちが学校に通うフェーズがあったし、私の助けを必要とする人の介護をするフェーズがありました。そういう人生のフェーズでは、あんまり海外に出かけたりすることもありません。一年に一度、一週間くらい仕事で海外に行ければ、いいほうかな、という感じで暮らしていたし、国内で出張したらできるだけ日帰りするようにしていました。

 若いころ、海外によく出かけていたけれど、子育てと介護で行けなくなりました、というと、何だか好きなことができなくて、我慢していたように聞こえるかもしれないけれど、ふりかえってみると、そういう覚えもありません。ずっと海外に出て行きたかったのではないのか、と言われると、その時期はそんなこともなかったんですね。あまり出かけず、子育てと仕事と介護をしていたフェーズは、家族から求められる、とても幸せな時期だったように思い起こせます。

 いまや、また、フェーズが移ってしまいました。

 子どもたちはすっかり大人になってしまったし、介護していた家族ももう、いなくなってしまって、はっと気づいたら、全部自分の時間で、若いころのように、いくらでも家をあけられるようになっていて、こうやって2カ月の間に16回も空港から出発したり、降り立ったりするようなフェーズになっているのです。

 人生ってなんどもフェーズが移るんですね。まるで劇場の幕が開いたり閉まったりするように。

 あなたのこれからの人生も、さまざまな場面が登場し、様々な幕があいていくことでしょう。どうか楽しみにしていてください。

あこがれの職業

 それはともかく。空港の話でした。

 いまは海外に行こうとすると、まず空港から出かけることになります。だいたいこの「海外」という言い方は、島国であるこの国に特有の言い方です。外国に行くには、「海」の「外」にでなければならない。陸路で外国に行くことはできません。

 世界には、日本のような島国より、他国と国境を接した国の方が多く、そういった国では外国に出ることは、「海」の「外」に出ることではありません。ごく身近に「違う国」が存在していることを身近に感じながら暮らしている人の方が世界には多い、ということも、想像してみたほうがよいかもしれませんね。

 ともあれ、日本からは「海」の「外」に行くしか外国に行く方法はないから、船か飛行機で出かけるしかありません。

 飛行機が普及する前はもちろん船だったのですけれど、いまや、船で渡航することは、時間もお金もかかってしまうので、豪華客船の旅行とか、何か目的を持った団体が主催する特別な船の旅行(ピースボートとか)以外には、なくなりました。海外に出る、とは、飛行機で出かける、とほぼ同義になっています。

 あなたは空港や飛行機は好きですか?

 空を飛べない人間にとって、空を飛ぶ飛行機は、それだけでとてもロマンをかき立てるものです。私は空港から出かけることが好きなんですけれど、何か理由はわからないけれど、飛行機や空港自体が好きで好きでたまらない、という人も、いつの時代にも一定数いるような気もします。

飛行機のおもちゃで遊ぶ少女

 ある若い女性は、飛行機を見ているのがあまりに好きで、空港で働く仕事を選ぶことにしました。飛行機の積荷のバランスなどを考えて、それぞれの飛行機がどのように荷物を積んだら良いか、考えるような仕事だったそうです。

 就職試験はもちろん、空港。空港に着いたら飛行機が見られるのがうれしくてうれしくて、試験のはじまる何時間も前に空港に行って、飛行機の発着がいちばんよく見られる場所に行って、それこそ、フェンスにはりつくようにして、ずうっと飛行機の発着を眺めていたそうです。そのとき、となりに同年代の男性がいて、同じように飛行機の発着を飽きずに眺めている。就職試験の面接ではそのときの男性がとなりにいたそうです。ふたりとも、しばらく、同じ会社の同僚になった、と言っていました。

 昔はスチュワーデス、と呼ばれた、CA(キャビン・アテンダント)の仕事に憧れる女性も、いつの時代も多いですね。飛行機が好きで、その好きな飛行機に乗って、外国語を話して、かっこいい制服を着て、どこかに行くことを仕事にできたらどんなにいいかしら、と思うのでしょう。

 パイロットは元々は男性の仕事でしたが、いまでは女性パイロットもおいでになるようですよ。CAに憧れていたけれど、実際に会社を訪問してみたら、パイロットにもなれることがわかって、パイロットに進路を変更した若い友人もいました。

 海外に出て行くだけではなくて、海外に出て行くこと自体を支えている、空港や飛行機で働く仕事もたくさんあるのです。

三砂ちづるプロフィール画像
三砂ちづる (みさご・ちづる)

 1958年山口県生まれ。兵庫県西宮育ち。津田塾大学国際関係学科教授、作家。京都薬科大学卒業、ロンドン大学Ph.D.(疫学)。著書に『オニババ化する女たち』、『昔の女性はできていた』、『月の小屋』、『女が女になること』、『女たちが、なにか、おかしい』、『死にゆく人のかたわらで』、『五感を育てるおむつなし育児』、『少女のための性の話』、訳書にフレイレ『被抑圧者の教育学』、共著に『家で生まれて家で死ぬ』他多数。

少女のためのシリーズ「少女のための性の話」

少女のための性の話

 

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