ブログ

「第13回 ぱっと行動する力」 少女のための”海外へ出ていく”話

少女のための"海外へ出ていく話"ヘッダー

なんとなく危ない、と思ったら

 国内にいても、もちろん、危ないことはいろいろ起こり得ますけれども、日本がいかに他国と比べて治安がよいほうの国なのか、ということはこの連載の第7回「安全のために知っておいてほしいこと」で書きました。これってなんとなく危ないんじゃないかな、という危険を察知する能力というか、勘のようなものは、海外に行かなくても国内でも鍛えられますし、どこにいても役に立ちます、と書いて、その回は終えましたが、今回はもうちょっと具体的に書いてみます。

 電車やバスなど公共交通機関に乗って通学している人も、いるかもしれないですね。あまり頻繁に乗らないけれど、ときどき使う、という人もいるかもしれない。若い女性であるあなたは、実際に痴漢などの被害に遭う可能性もありますし、なかなか苦労が多いと思います。

 なにか変だな、とか、おかしいな、とか、この人はちょっと危ないんじゃないか、と思ったときは、躊躇せずに乗り物を降りる、あるいは乗っている車両をかえる、ということをしたほうがいいと思います。急いでいるからそんな時間はない、と思うかもしれないですが、なにかおかしいな、と思ったとき、さっと行動を起こせる訓練としても、そういうことは大事なことです。

駅のホーム

 具体的にはどんな人が危ないか、などということは実際のところわかりませんから、具体的に書けないものですが、「この人のそばにいると危ない」とか「この人の隣に座っているとなんとなく気持ちが悪い」というような経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。わたしもあります。そういう場に遭遇したら、躊躇なく動くようにしましょう。

 電車の場合は、とにかく次の駅で降ります。都市圏でしたら、次の電車は結構すぐ来ますから、次の電車に乗ります。そんなに来ない電車のときは、少なくとも、次の駅で降りて隣の車両に移るなり、あまり混んでいなければ、車内で移動するなりして、その場から離れるようにしたほうがよいでしょう。

 なぜわざわざこういうことを書いているかというと、わたしたちには、「現在の状況を安全と思いたい」「ちょっと変だけど大丈夫だと思う」「わざわざ行動を起こすほどでもない」というような、現在の状況をかえるような行動をとりたくない、という傾向があるからです。周りの人と同じように行動していたい、という傾向もあります。そのことをまず、覚えておいてください。

 そして電車の中にかぎらず、「ここはちょっと居心地が悪い」と思ったら、さっさと立ち去る、という反応のよさを鍛えることは、危険な目に遭うことを避ける方法の一つだと思います。

リスクをミニマムに

 ホームで電車を待っていたり、交差点で信号が変わるのを待っているときも、少し頭を働かせて、どこが安全な位置だろう、なにかあったときに、どこにいるのがより危険が少ないだろう、と考えてみるのもよいと思います。

 首都圏では最近、電車のホームに柵がある駅が増えてきましたが、まだまだ柵のないホームも多い。柵のないホームは視覚障害のある方には本当に危険で、できるだけたくさんの柵が取り付けられていくように望みます。

 柵のないホームでは、なにかあったら、ホームに転落してしまいます。誰かにぶつかられたり、何らかの力が加えられたりしないと、どうして言えるでしょう。ホームの線路側ぎりぎりに立つより、なるべくホームの真ん中あたりに立つほうが、どう考えても安全です。

 交通量の多い交差点の歩道で信号を待っているとき、車道側ぎりぎりのところに立っていて、何らかの事故で車が歩道に乗り上げてきたら、まず、巻き込まれてしまいます。車道から距離をとって信号を待っているほうが、安全なのではないでしょうか。

横断歩道

 書いていることわたし自身も、これからどういう目にあうかもわかりませんが、「なんとなく、危ないのではないか」ということを敏感に感じる力は、海外に出たいと思っているあなたには是非身につけていただきたいものです。

 いくら考えても、鍛えても、どうしようもなく避けられないことはありますが、それでも、リスクをミニマムにする行動というのは、常にとることができます。とはいえ、見知らぬところに出向いて見知らぬ人と出会うためには、ある程度の冒険が必要なことも多い。ですから、こうすればうまくいく、という話ではなくて、自分で日々経験しながら、自分を鍛えていっていただきたいな、と思うのです。

 避けられる危険はできるだけ避ける行動をとりながら、何か起こったとき、起こりそうなときは敏感に反応できる力を、つけていくことは可能です。

 「責任」、という単語は英語で「responsibility」 といいます。これをよくみると、response(反応する)という言葉とability(能力)という言葉が組み合わせられていますね。「敏感に反応する能力」、つまり「なにかあったときにさっと動いて反応する力」を備えていると、結果として、いろいろな責任を取れるような人になっていけるのかもしれないな、とぼんやりと考えます。

 海外に行きたい、と思っておられるあなたは、ぜひ「反応する能力」を鍛えて、責任ある行動がとれる人に育っていってもらいたいな、と思います。

5割で動く

 生まれてはじめて長期で海外で働くことになったとき、大学でとてもお世話になっていた先生に「5割で動きなさい」と言われました。

ハートマークの信号機

 日本で勉強したり、仕事をしていると、つい、無理をしてしまいがちだし、また、無理もできるものだから、自分の持っている力(体力とか、時間を使う能力とか……)を100%とすると、ついつい150%とか200%まで使ってしまって、無理を重ねがちです。

 海外に出て行くと、どんな状況が起きるか、予想できません。自分の体も適応するまでには時間がかかるでしょう。

 そういうときに、日本にいるのと同じように、自分にとっての100%をこえてがんばりすぎると、心身ともに疲れ切って、客観的な自分の状況が判断できなくなってしまいます。だから、いつも目いっぱい頑張るのではなく、「50%くらいで動くようにしなさい」というのが、先生のアドバイスだったのです。

 「50%で動く」というのは、なんだか「サボっている」ような感覚になります。まだまだ動けるし、まだまだ頑張れる、と思っても、そこで止めておく、余力を持って今日を終える。それが大切だ、ということです。

 状況のわからない海外に行ったら、いつなんどき、自分の全力以上の力を使って解決しなければならないような状況が訪れるか、わからない。そのときのために、力を温存しておきなさい、ということでもあったでしょうし、また、知らない環境で全力を使ってしまうと、すぐに体調を崩してしまう、ということでもあったでしょう。

 「5割で動く」ということかどういうことか、当時ははっきりわからなかったけれど、先生のおっしゃることを守って、海外にいるときは「できるかな、でも、ここで止めておこう」という感じを自分に課すようにしてきました。だから、周囲の若い人が留学やボランティアで海外にはじめて出かけるとき、わたしもこの先生の教えを伝えるようにしています。「5割くらいで動きなさい」と。

 いつもそれくらいの余裕があると、おのずと「反応する能力」、つまりはresponsibilityの高い行動が、取れるようになっていくのではないでしょうか。

 海外での日々を安全に送るために、こういうことも、考えてみてください。

 

三砂ちづるプロフィール画像
三砂ちづる (みさご・ちづる)

 1958年山口県生まれ。兵庫県西宮育ち。津田塾大学国際関係学科教授、作家。京都薬科大学卒業、ロンドン大学Ph.D.(疫学)。著書に『オニババ化する女たち』、『昔の女性はできていた』、『月の小屋』、『女が女になること』、『女たちが、なにか、おかしい』、『死にゆく人のかたわらで』、『五感を育てるおむつなし育児』、『少女のための性の話』、訳書にフレイレ『被抑圧者の教育学』、共著に『家で生まれて家で死ぬ』他多数。

少女のためのシリーズ「少女のための性の話」

少女のための性の話

 

関連記事

ページ上部へ戻る
mitsui-publishing