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「第8回 自分で料理を作る」 少女のための”海外へ出ていく”話

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海外でいちばん大切なことは?

 女子大学の教員をしているのですが、時折、外部の方に来ていただいて学生たちに講義をしてもらうことがあります。

 私より少し年下の友人に、「国際的な仕事」について、話をしてもらったことがありました。彼は若い頃から、いわば「世界中で活躍している人」でした。1990年代、ブラジルのスラムで当時まだ不治の病であったHIV/エイズによって両親を亡くした孤児のための施設で働いたり、その後もブラジルのアマゾンの奥地で、農業や医療に関わる様々な活動を続けておられ、アフリカ地域での仕事の経験も多い。とりわけ、厳しい地域で仕事をしてきた人です。

 ある時、学生が彼に「海外で活動を続けていくために、一番大切なことは何ですか?」と聞いたことがありました。その答えは、「自分で食べたいものを自分で作ることができることですね」ということでした。

 今まで住んだこともない異文化の地で、知り合いもたくさんはいないところで暮らしていくなかには、もちろん楽しいことだけではなくて、困難なこともある。そんな時、自分をよい状態に保っていく、ということはとても大切で、「食べること」は、その根幹にあると思います。

 

自分のソウル・フードを知っている?

 世界中の人は、その地元のものを使って、自分たちの工夫のもとに、様々な食事をしています。私自身は好奇心が旺盛なので、食べたことのないものでも、現地の方がおいしそうに食べているものであれば、食べてみたい、と思うほう。そしておおよその「おいしいと思われているもの」は、おいしい、と思います。

 でもやっぱり、「口に合わない」ものはもちろん誰にでもあるし、「その時は」食べたくないことも、あるでしょう。観光や短期間の滞在で、食べたくなければ食べなくても大丈夫でしょうけれども、長期で住んだり、働いたりする、となると、話は違います。

 長い期間にわたって、自分をよい状態にしていこう、と思えば、「食べたい」ものは食べられる方がいい。そのためには、「こういうものを食べると自分が元気になるんじゃないかな」ということを、わかっている方がいいですよね。

 多くの人が短期間海外に出て行く時に、カップラーメンやインスタントの味噌汁など、ちょっとした日本食を持っていくことは、少なくないと思います。幼い頃から慣れ親しんだ食べもの、自分の土地にいれば、毎日のように食べているけれども、その土地を離れるとそんなに簡単には手に入らない食べもの、そしてそれを食べると、なんとも言えない安堵に包まれるような食べもの。そういうものはソウル・フード(魂の食べもの、ですね)と呼ばれます。

 日本の人にとってのソウル・フードってなんでしょうか。炊きたてのごはんかもしれないし、ふわっとむすんだおにぎりかもしれないし、お味噌汁かもしれないし、ラーメンかもしれないし、うどんかもしれない……。そういうものを海外に行く時に携えていくと、いざという時に頼りになることは、間違いありません。

 

ナイロビで味噌汁に救われる

 生まれて初めて出かけた海外は、ケニアのナイロビでした。パキスタン航空でパキスタンのカラチという街を経由し、ナイロビに入りました。

カラチで食べたものがよくなかったのか、あるいは最初の海外旅行のストレスもあったのか、ナイロビに着くなり、ひどい下痢で寝込み、お世話になっていた学校の先生の家を一歩も出られない、というひどいありさまに陥りました。

 今のようにSNSがあるわけでも、インターネットがあるわけでもなく、全く知らない土地で、日本の家族や友人に弱音を吐くこともできず、本当に心細かった。何も食べられなかった時に、カバンにいくつか持っていたインスタントの味噌汁をお湯に溶いて飲んだ時のホッとした気持ちは、忘れることができません。

 私にとってのソウル・フードは、日本にいた時はそんなに好きだとも思っていなかったんだけど、お味噌汁である、ということが判明した瞬間でした。

 その後、私は長期短期にかかわらず、海外によく出て行くようになり、経験も増えて、この連載などを書いたりしているわけですが、このナイロビでインスタント味噌汁に救われて以降、海外に行く時は、必ずインスタント味噌汁を持っていきます。今は、フリーズドライの野菜やきのこが具になっているものなど、いろいろな種類がありますから、選ぶのも楽しみです。

 

ポットとカップとお箸があれば

 インスタント味噌汁を作るには、お湯がいりますから、旅行用の小さな湯沸かしポットと海外用のコンセントと、お椀かカップも持っていきます。お箸と小さなスプーンも、いつも持っています。電気のないところに行くこともあるので、そういう時は沸かしていただくお湯に頼るしかありませんが、まず、どこの国でも空港のあるような街のホテルに泊まると、だいたい電気はありますので、湯沸かしポットがあればお湯が沸かせます。

 湯沸かしポットは、日本のホテルならどこにでも常備されていますし、また、紅茶を飲む習慣の根強いイギリスや、旧英領植民地であった国々(どういう国か調べてみましょう)のホテルでは、たいてい湯沸かしポットがあります。しかし、その他の国では、部屋に湯沸かしポットなどないところの方が多いので、ポットがないと、部屋でお湯を沸かせません。

 またコンセントは国によって形が違うので、せっかくポットを持っていっても、コンセントが合わないとお湯が沸かせません。「各国共通万能コンセント」のようなアダブターを、旅行用品の会社や空港などで売っていますから、ポット用に限らず、パソコンを使ったり、スマホの充電したりするためにも、海外に行く人は一つ持っておくとよいと思います。

 あと、日本のホテルでは必ず湯のみかティーカップなどは部屋にありますが、これも他の国ではないところも多いので、カップ一つとお箸はいつも持っていきます。

 

それが自分の自信になる

 非常用のインスタント味噌汁の話はこのくらいにして、元の話に戻りましょう。

 「国際的な仕事をするために最も大切なことは、自分で食べたいものを自分で作ること」。

 つまり、長く海外に住むのならば、現地の食材を使って、自分の食べたいものを自分で作れるようにすることが、大切なのです。異文化の中で、しんどいな、と思っても、自分の食べたいものを、現地の食材を使って自分で作ることができれば、心が落ち着きます。

 もちろん国によりますけれども、野菜やとり肉などは比較的手に入ることが多いですから、最低限、醤油だけでも持っていれば、何か和風の一品を作ることができます。ソイソース、すなわち醤油は今や世界でも有名な調味料になりましたから、どんな国の首都でも結構買えるようになりました。

 今の若い世代のあなた方にとって、自分の食べたいものはとりわけ和食、というわけでもないかと思いますが、とにかく好きなものは自分で作ることができれば、海外の暮らしへのハードルは、少し低くなるでしょう。

 とはいえ、海外に出て、急に自分で好きなものが作れるわけではない。自分の国にいるときから、自分の好きなものくらい自分で料理できる方がいいし、何と何があればこういうものが作れる、そして、それは私が好きなもので、私が好きなものを自分で作ることができるのは、自分の自信につながる、ということを若いうちに覚えてもらえるといいな、と思います。

 女だから料理をしろ、というのではなくて、男でも女でも世界で活躍したい人は、自分の食べたいものは自分で作れる方がよいでしょう。そのために、普段から、少しずつ料理に親しんではいかがでしょうか。

 海外で日本食は大人気ですから、あなたが何か日本食を作ることができれば、それだけで話題も提供できることにも、なるでしょう。

三砂ちづるプロフィール画像
三砂ちづる (みさご・ちづる)

 1958年山口県生まれ。兵庫県西宮育ち。津田塾大学国際関係学科教授、作家。京都薬科大学卒業、ロンドン大学Ph.D.(疫学)。著書に『オニババ化する女たち』、『昔の女性はできていた』、『月の小屋』、『女が女になること』、『女たちが、なにか、おかしい』、『死にゆく人のかたわらで』、『五感を育てるおむつなし育児』、『少女のための性の話』、訳書にフレイレ『被抑圧者の教育学』、共著に『家で生まれて家で死ぬ』他多数。

少女のためのシリーズ「少女のための性の話」

少女のための性の話

 

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