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「第7回 安全のために知っておいてほしいこと」 少女のための”海外へ出ていく”話

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自動販売機が盗まれない国

 コンゴ民主共和国、という国から、お客さんが見えていました。私は今、大学で働いているのですが、大学には招聘教員、という制度があるところも多い。外国の大学の先生に招聘教員として短期間だけ来ていただいて、授業をしてもらいます。

 今回、おいでいただいたレイモンド先生は、リモートセンシングという技術や農業に関することが専門の先生で、コンゴの大学の先生であると同時に、World Bank、世界銀行、という国際機関の職員でもありました。世界中に出張されたこともある国際派の先生なのです。日本においでになるのも二度目なので、かなり日本に慣れてもおられるのですが、それでも、飲み物の自動販売機の前で、本当に感動して、腕を組んで唸っておられます。

 いやあ、これは本当にすごい。こんな自動販売機があるなんて。それもこんなたくさん、人が全く見ていないところにも、あるなんて。この中には、商品が入っているんでしょう? そして、お金も入っているんでしょう? それなのに、誰もこの自動販売機を壊して、中身を盗んだり、お金を盗んだりしようとしない。キンシャサだったら、これ、自動販売機ごと、あっという間に盗まれるよ。……とおっしゃる。

 キンシャサというのはコンゴ民主共和国の首都です。これを読んで、アフリカの首都はそんなに恐ろしいところなのか、という先入観をみなさんに与えることは不本意です。キンシャサも1970年代頃は本当に美しく、治安の良いところだったようなのですが国際政治の中で翻弄され、確かに今は治安が悪い。

 レイモンド先生が言いたいのは、「自動販売機はキンシャサだけで盗まれそう」ということではなく、世界のあちこちを見てきたけれど、こんなふうに自動販売機を、ぽん、と配置していい国は、そんなにないんですよ、ということです。

 キンシャサに限らず、先進国を含む世界中の多くの国で、お金と商品が入っていることがわかるものが、無人で放置されているところは、そんなにない。日本は、治安、という面では、世界の標準で考えれば、ものすごく良い国である、ということです。

 もちろん、危ないこと、恐ろしい事件、などと無縁ではありませんし、場所によっては、お世辞にも治安がいい、とは言えない地区も存在しますが、それでもこの国は、治安の良い、安全な国、と言えます。先人たちの努力と、今の日本を生きる人たちの努力の賜物と言えるでしょう。

 

子どもが一人で電車通学できる国

 私もイギリスやブラジルなどの外国に15年ほど暮らして日本に帰ってきた時、何より驚いたのは、東京で、私立小学校の制服を着た小学生、しかも見るからに低学年と思われる小学生たちが、大人に連れられることなく、一人で電車に乗って通学している姿を見た時でした。

 それまで住んでいたブラジルの都市では、いわゆる中産階級の子どもたちは、学校に行くのも、塾に行くのも、お稽古事に行くのも、遊びに行くのも、みんな親たちが車で送り迎えしていたのでした。治安が悪いので、「そこそこお金がありそうな家の子ども」は、誘拐される可能性があるから、一人で外を歩かせることなど、なかった。

 東京で、私立小学校に通う子どもたちは、親がそこそこ余裕のある生活をしている人たちです。だいたい公立小学校には制服がないところがほとんどだから、制服を着て歩いているだけで、私立小学校の生徒とわかります。

 東京の小学生で、制服を着ている、というだけで、割とお金がありそうな家の子ども、ということがわかるのに、子どもたちは一人で電車に乗って通学している。誰も誘拐の可能性を心配していない、ということなのでした。

 日本は、そうだ、治安が良く、安全な国なのだった。子ども達が一人で出かけられる国なのだった、と、改めて思い出したのでした。

 

海外で安全に過ごす心得

 つまり日本で暮らしているあなたは、世界の中では「割と安全で治安の良い国」に住んでいる、ということなのです。

 生活の感覚、というものは日々の暮らしの中で育まれていきます。

 日本で暮らしていると、幸いなことに結構治安が良いものだから、私たちはわりと安心して、道を歩き、ぼおっと荷物を持ち、暗くなっても平気で歩き、夜中を過ぎても女性一人で家に帰ったりするようになります。

 東京では、夜中12時前後の終電に近くなればなるほど電車は混み、男性も女性も遅くまで電車に乗っており、夜中の2時頃になっても女性が道を一人で歩いたりしています。それで特に何の問題もないことも少なくない。

 この感覚で生きていると、外国に行ったら、本当に危ない目にあいます。一歩日本の外に出たら、「安全」の常識はやや、違う、と思わねばなりません。とりわけ若い女性であるあなたは、若い女性である、というだけで狙われてしまうこともあるのですから、怖がらせるのが目的ではありませんが、幾つかのポイントを抑えることで、安全に海外でも過ごしてもらいたい、と思います。 

 まず、日が落ちてから女性が一人歩きして良いと頃はない、と心得ること。暗くなったら、まず一人では歩かない。とはいえ、ヨーロッパでは冬になったら午後3時頃から暗くなってしまうところもありますから、午後3時から歩けない、となるとそれはそれで問題ですけれど、とにかく、慣れてきて、他の人の行動がよくわかるようになるまでは、暗くなったら出歩かないこと。

 ましてや東京のように、夜中の12時過ぎても女性が一人で歩いていていいようなところはどこにもありません。

 どんなに安全そうなところでも、若い女性は一人で夜8時以降出かける、などということは、まず、避けるべきでしょう。誰かと一緒に行動する、現地のことをよくわかっている人に連れて行ってもらうことを心がけたほうがいいです。

 

直感を働かせる練習を

 男性と二人きりで車に乗る、とか、男性の部屋に一人で行く、ということは、どういう状況になっても構わない、と思われても仕方のない行動です。男性一人の家に誘われて、はい、いいですよ、と行く、ということは、それなりのことを期待されています。いや、そういうつもりじゃなかった、と言っても、行ってしまった後では遅いです。世界中、そういうものですから、日本では大丈夫でした、と言っても、国際的常識は違うのだ、と心得ていてください。

 日本女性は、はっきりノーを言わない人が多いですね。女性だけじゃなくて、まあ、みんな、割とそうなんですけど。相手に悪い感じを与えたくないから、なんとなくニコニコしています。そして、言葉がよくわからないと、一層、なんとなく笑ってごまかしてしまう、というところもあるかもしれない。

 笑顔は人間関係を円滑にするためにとても役に立ちますし、若い女性がニコニコしているのは素敵なことなんですけど、笑っていると、なんでもオーケー、と思われてしまいます。

 いったん外国に行くと、慣れるまでは「私はヘラヘラ笑いすぎていないか」と思いながら、過ごしたほうがいいかもしれません。私自身は、つい、目が笑ってしまうから、外国では慣れるまでわざとサングラスをかけたりしていました。サングラスをかけると、それだけで、むやみに笑わなくなります。

 はっきりノーって言えるようになるまで、こういう小道具の助けを借りるのも良いかと思います。

 小さなナップサックやリュックは後ろに背負っていると「盗まれても構いません」と無防備になっていると思われても仕方ありません。大事なものの入っているリュックは前に抱えましょう。ショルダーバックもひったくられないように、たすきがけの方がいいですね。どうしても取られたら困るパスポートといざという時のキャッシュなどは、私は今でも、服の下に付けられる目立たないウェストベルトなどで体に直接触れるところに持つようにして、常に自分とともにあることを確認しています。

 危険察知能力は、海外に出てから突然身につけるものではなく、どこにいても自分の身を守るために必要なものです。ここはちょっと危ない、とか、ここに立たないほうがいい、とかここの道は危険な感じがする、とかそういう自分の直感を働かせることができるような訓練はどこにいても役に立つものだと思います。

 びくびくする必要はありませんが、「これはいつもと違う」「ここはちょっと危ない」という自分の直感を鍛えていってください。

三砂ちづるプロフィール画像
三砂ちづる (みさご・ちづる)

 1958年山口県生まれ。兵庫県西宮育ち。津田塾大学国際関係学科教授、作家。京都薬科大学卒業、ロンドン大学Ph.D.(疫学)。著書に『オニババ化する女たち』、『昔の女性はできていた』、『月の小屋』、『女が女になること』、『女たちが、なにか、おかしい』、『死にゆく人のかたわらで』、『五感を育てるおむつなし育児』、『少女のための性の話』、訳書にフレイレ『被抑圧者の教育学』、共著に『家で生まれて家で死ぬ』他多数。

少女のためのシリーズ「少女のための性の話」

少女のための性の話

 

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