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第40回 にこやかに、異論を伝えてみましょう

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遊歩と宇宙の「自分がきらい」から「自分がすき」になる相談室画像

保育士をめざしています。保育園の実習先で、1歳の子が自分の煮物にお茶を入れてしまいました。煮物を残してデザートのバナナに手を伸ばしたその子は、「ずるいわよ、煮物を先に食べなさい」と保育士につよく怒られました。牛乳をいやがる子に、全部飲むまで席を立たせないこともありました。子どものために、何か言うことができなかったのか、悩んでいます。どうすればよかったのか、おしえてください。(さくらんぼ・40代・アルバイト)

にこやかに、異論を伝えてみましょう

子どもをめぐる状況の過酷さに、胸がいたみます。

私は、自分で感じ、自分で考え、自分で決めて行動できる子になってほしいと思って子育てをしてきました。

大人の考えや、やり方をおしつけることはしませんでした。常識的には、しからなければならない場面でも、いつも「お願い」というかたちで、自分の気持ちを伝えてきました。

たとえば食事の時間に、娘が「ごはん食べたくない」と言います。

彼女のからだがそう言っているのだから仕方がないなあ、と思いながら、少しは食べてほしいし、テーブルの上がいつまでも片付かなくて、片付け好きの私としては落ち着かない。そういうときは「宇宙ちゃん、ちょっとだけ食べて。テーブルの上を片付けたいんだけど、いいかな」とか、「お願いなんだけど、そうしてもらえないかな」などと、0歳のときから言葉を尽くして伝えてきました。

子どもにとっては、すべてが好奇心の対象です。子どもは実験が大好きなので、煮物にお茶を入れてみることは、私からすればあまりにも当然な行動です。私の娘も、ごはんにヨーグルトをかけるとおいしいことを発見してから、ごはんをよく食べてくれるようになりました。

食べることや飲むことを強制するのは、暴力です。敗戦直後、満州にいた祖父は、ロシア兵か中国兵か日本兵かに連行され、翌朝、全身がぶよぶよの遺体で帰ってきました。一晩中、水を強制的に飲まされたそうです。その祖父と、牛乳の前で怖がっている子どもの姿が、私には重なって見えてしまいます。

もし言える状況でしたら、やさしく、ニコニコと、「その言い方は暴力的ではないでしょうか?」と伝えてください。

子どもをしかる大人たちは、深刻な顔で怒ります。そこへ、まるで楽しいことを話しているかのように、やさしくにこやかに異を挟むと、周りは「え?」という顔になります。批判されていることに気づくまでに、ちょっとだけタイムラグができます。その言い方だけで10人に1人くらいは、暴力的な物言いがおさまるときがあります。

深刻なことに深刻な顔つきで返しては、うまくいきません。でもこれは、トレーニングと、自分にゆるぎない信頼が必要です。

本人に直接言えない場合は、上の立場の人、ご質問のケースでは上司や役所の管轄部署に、電話で伝えることも、できることの一つでしょう。

あまりにも間違った子どもへの対応には、少しでも介入して、子どもの主体性を大切にし、人間性を守っていきましょう。(遊歩)

安積遊歩(あさか・ゆうほ)
1956年福島県福島市生まれ。生後40日目で骨形成不全症と診断される。22歳で親元から自立。 1983年から半年間、アメリカのバークレー自立生活センターで研修を受け、ピア・カウンセリングを日本に紹介。 障がいをもつ人の自立をサポートする。2011年まで、再評価カウンセリングの日本地域照会者。 1996年に40歳で愛娘・宇宙を出産。優生思想の撤廃や、子育て、障害を持つ人の自立生活運動など、様々な分野で当事者として、からだに優しい生活のあり方を求める発言を続ける。 著書に『癒しのセクシー・トリップ』『車イスからの宣戦布告』、共著に『女に選ばれる男たち』など。

安積宇宙(あさか・うみ)
1996年東京都生まれ。安積遊歩の娘。母の体の特徴を受け継ぎ、生まれつき骨が弱く車いすを使って生活している。 小学校2年生から学校に行かないことを決め、父が運営していたフリースクールに通う。ニュージーランドのオタゴ大学在学中。

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